第22話 学校での百合香ちゃん

 私は一人も友達がいません。作りたいと思ったこともあるけど、皆どこか私より大人びてて、私とは釣り合わない気がします。


 ほとんどの人と目を合わせないようにしています。授業中に先生と目が合うくらいです。皆きっと、私を見たら不愉快に思うと思います。私は子供っぽいですから。


 学校は楽しくないです。でも行きたくないわけでもないです。あそこは行かなきゃいけない場所で、行くのを拒否する権限はないものだと思っています。親にお金を工面してもらってるし、ずる休みしたら授業についていけなくなります。それでテストの点数が下がるのは嫌だし、親や先生に怒られるのも嫌です。


 誰か私に話しかけてくれるかなって、思ったこともあります。英語の授業で、隣の人と教科書を読み合う時。地理の授業で、隣の人とクイズを出し合う時。隣の女の子は優しい笑顔で接してくれます。でも、休み時間になったら彼女はどこかに行ってしまいます。



 ある日、廊下を歩いていると、ゴミ収集車がゴミを集めているのを見ました。収集車の中へ大きな袋が、ガタイのいい男の人によって投げ込まれていました。

 もしかしたらあの人は、私みたいな小柄な女子も簡単に投げ込めるんじゃないかな、なんて、ふと思いました。それは、本当にふと思っただけです。


 それから、私がゴミと一緒にガタイのいい男の人に投げ込まれることを想像し始めました。授業中、買い物の時、家にいる時。そして寝る前でさえ、私が宙を舞って収集車の中に放り込まれるのを想像していました。それは今もしています。


 ガタイのいい男の人は、私の腹を持って振り回しながら収集車の中に入れると思います。雑に、一ミリも気を遣わず、ゴミと同様に、私を収集車の中に投げ込むでしょう。もっと確実に収集車の中に放り込まれるには、ゴミ袋の中に入っておけばいいと思います。でも、むしむししそうなので入ろうとは思いません。



 そんな想像をずっとしていると、一度だけゴミ捨て場に座ってみようかな、と思いました。ガタイのいい男の人が私を投げ込むという私の想像が、実際に起こったらどうしようと不安になったからです。私の想像が現実にならないでほしい。その思いで、敢えて座ってみたんです。


 結果、男の人は私を無視しました。いっぱいあったゴミは全部収集されて、収集車も行っちゃって、ぽつんと私だけが残りました。


 ゴミ以下の存在だったんだ。


 そう思いました。


 だから誰も私に話しかけないんです。ゴミ以下の物と人間とでは、どう考えても釣り合いが取れません。




 ゴミ以下の私。人間の存在する教室内は、私には高レベル過ぎます。特にお昼休みは私と他の人の差が手に取るように感じられます。4時間目のチャイムが鳴ったらお弁当を持って、すぐに教室を脱出します。でも、周りのどこを見渡しても、ゴミ以上のものしかありません。仕方ないからゴミ捨て場で食べることに決めました。


 ゴミ捨て場でお弁当を食べていると、きっと誰かが私を気に掛けるに違いない。そんな淡い期待を抱きつつ、毎日ゴミ捨て場でお弁当を食べています。


 でも、私を見るのは意地悪なお嬢様っぽい人くらいで、誰も見向きもしません。本当は、最初の二、三日はチラチラ見られました。でも、次第に皆慣れたのか、見なくなりました。


 ゴミ捨て場はちょっと臭いけど、我慢すれば慣れました。お昼休みに楽し気にしている人たちの中で浮いているより、誰もいないゴミ捨て場で一人沈んでいるほうが落ち着きます。私はゴミ以下ですから。


 私はゴミ以下。人は私を無視する。ゴミ捨て場が私の居場所。


 いつしか家の前のゴミ捨て場さえも居場所になっていました。認めたくないけど、居心地が良いんです。ゴミと並んで埋もれているほうがいい。人の形をした粗大ゴミでいい。

 ゴミ捨て場に座っている時は、いつもそう思っています。

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