第23話 美少女に軟膏を塗ってあげる夜
下着姿の百合香ちゃんの首に、人差し指で軟膏を塗っている。今日、金髪くるくるヘアに鞭で打たれた部分を癒すために。塗りながら、百合香ちゃんの話を黙って聞いていた。
コカンの上に座っているこの美少女が、まさかそんなエキセントリックな考えを持っていたなんて。驚愕だが、それよりも一つ疑問がある。
「何で俺には話しかけたんだ? 誰にも話しかけなかった百合香ちゃんが」
「そ、それは……」
プルッと震えて、もじもじし始めた。
「お兄さんに、一目惚れしたからです……」
「ほう」
「この人なら絶対拾ってくれるって思ったからです……」
「なるほど」
ぬりぬりと、首筋にぬるぬる軟膏を塗りたくる。肌がむにむに柔らかくて、ハリもあり、きめ細やかな肌だ。そこらへんの男を無作為に選んで百合香ちゃんの肌を触らせたら、ボッキするに違いない。
ところが俺はボッキどころか、枯れ草よりも萎えている。
「百合香ちゃん。俺とゴミ、どっちが上?」
「うーん…………それはとても難しい質問です。強いていうならお兄さんですけど、まだ使えるゴミや資源ゴミの存在も考えると……」
こいつ。やっぱり俺をゴミ以下と認識してやがった。
「お兄さんが放つオーラは凄かったです。だって全身からゴミみたいな存在感がバンバン出てましたもん。ふふっ」
可愛く笑いながら、とんでもないことを言っている。
「ゴミを持ってたからな。百合香ちゃんが察知したのは俺のオーラじゃなくて、ゴミのオーラだったんだよ」
「違いますっ。あれは絶対にお兄さんのオーラでした! 気だるさと哀愁と退廃に満ちた瞳、私は今も鮮明に覚えています。直感で私と似てるって思いました。きっと何かに悩んでるんだろうなって。そうですよね?」
こっちを向いた百合香ちゃん。期待のまなざしは眩しい。コバルトブルーの瞳が
「悩んじゃいないよ」
「嘘ですっ。悩んでる顔してるじゃないですか」
「下着姿の百合香ちゃんが不健全な格好だから悩ましいな」
「え…………お、お兄さんついに私とえっちを?」
「不健全だと言っただろ」
見抜かれるもんだな。こんな子供じみたJKにも、腐り果てた俺の姿は見えているようだ。留年してからというもの、ゴミ捨て場のような一人暮らしの家の中でゴミのように暮らしてきた。顔や体つきやオーラにゴミさが出ていたとしてもおかしくない。
留年前は頻繫に
時が経つにつれ、ゴミは腐り、もっとゴミになる。改めて考えたら屈辱的なことさえ、ゴミ捨て場のようなアパートの一室にいるとどうでもよくなっていく。
「お兄さん。ねえお兄さんっ。いつまで軟膏塗ってるんですか?」
眉根をにゅっと上げて不満げな百合香ちゃんが目に入る。
「あ、ごめん」
「服ないんで、またお兄さんのジャージ借りますね?」
「ああ、着ていいぞ」
俺の両膝をぐっと押して立ち上がった下着姿の美少女は、部屋干し用の物干しにつり下がったジャージを取りに歩く。一歩歩くたびに丸いお尻がプルルッと揺れて、いちいち目の毒だ。
「俺の家で寝るときは、寝間着持ってくるんだぞ」
「はぁい。次からずっとそうしますね。ずーっと、です。ルーンルーン」
愛くるしい。エロいというより、愛おしい。守りたくなる。
この愛くるしい美少女が、明日もゴミ捨て場に座ってるのかと考えると。
「じゃーん。お兄さんのジャージです。さあ、私と一緒に寝ましょうね? お、に、い、さぁん♡」
「俺が眠ってる間に変なことするなよ。バレなきゃいいとか思うなよ。それから、誘惑じみたことも禁止だぞ」
「はーい。お兄さんに抱きついて寝るだけにしまーすっ。とりゃっ」
ぼふっ
と、俺の布団にダイブする百合香ちゃん。
「はしゃぐな。子供か」
「だってお兄さんと寝たいんですもん。お兄さんだって私と寝たいくせに」
「……ふんっ」
俺が布団に入るやいなや、百合香ちゃんはぎゅうっと抱きついてきた。初夏というのに肌寒い夜だから、百合香ちゃんの匂いとぬくもりが心地いい。
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