第18話 女子高近くのゴミ捨て場にて

 自転車での帰り際。第二十五高校の前を通る。帰路にこの高校があって、この6年間でもう何度も前を通った。


(制服が違うな)


 セーラー服のJKが数人、校門から出てきた。スカーフが赤いため、百合香ちゃんは第二十五高校の生徒ではないらしい。


(百合香ちゃんの高校を探してみよう)


 好奇心は瞬く間に脳に染みわたり、反射的に自転車のハンドルを90度回していた。


 ここから北に向かうと、仙怠せんたい右原みぎはら女子高校という、少々偏差値の高い女子高がある。ダサい名前すぎて、俺が女子なら絶対行かない。でも県内では4番目に高校だ。


 涼し気な木々の緑を抜けると、広世ひろせ川という大きな川に出る。そこに架かるよどばしを自転車でサーっと走り抜け、心地よい風を全身で受け止める。


「きもてぃー」


 横を歩いていたオバチャンに、細く吊り上がった目で睨まれた。


(に、睨まなくても)



 少し上り坂になり、立ちこぎをする。運動不足でモヤシな俺は、これだけでハーハー言ってしまう。

 とうとう坂を上り終えた時、その高校は見えた。


(ふう、ふう……。やっと着いた)


 何を言ってるんだ俺は。ここの生徒じゃあるまいに。


 仙怠せんたい右原みぎはら女子高校の生徒は、自由奔放だ。昼時、普通なら学校の食堂でメシを食うもの(事実俺が高校生だった時分もそうだった)が、この女子高の生徒は違う。

 

 ぞろぞろと校門から出て、向かいのコンビニや、コンビニの三軒となりのラーメン屋、交差点の向こうに見えるイタリアンレストランなど、いろんなところに四散するのである。


「自由すぎるぞ。大学生かよ……」


 もし俺が女子なら、仙怠せんたい右原みぎはら女子高校を受験しただろう。昼食でイタリアンレストランOKとか、やば。


 その時、声が聞こえてきた。


「今日はどのフランス料理店に行きましょうか?」「最明院さいみょういんさま、わたくしは四丁目の『ブドワー』がよいかと。あの店のエスカルゴがうんたらかんたら」「最明院さま、この私、七丁目の『モンサンミシェル』を是非。肉汁がたっぷりとかけられた羊肉のローストがうんたらかんたら」

「分かりましたわ。では今日は熊本ラーメンにしましょう」「「はいお嬢様」」


 なんだかよく分からない学校だな。金髪くるくるヘアのお嬢様、熊本ラーメンなんか食べるんだ。口が臭くなるけど、いいのか?

 

 なんて思いながら、赤信号で止まる俺。


 赤信号の向こうに、ゴミ収集車が駐車されていた。女子高のすぐ隣のアパート、そのゴミ置き場に溜められたゴミを回収している。


「……」


 業者が次から次へとゴミを収集車に投げ込んでいる。巨大な刃がゴミをぐちゃぐちゃに刻み、見るからに汚い。

 

「きっと、そんなことはあるまい」


 あんな激しくゴミを投げ込んでいる後方で、百合香ちゃんが座っているなんてことはないだろう。まして、学校の昼休みだ。ゴミのニオイが染みついたら皆に嫌われてしまうだろうし。


「嫌ですわあのお方。なぜいつもゴミ捨て場で弁当をお食べになっているのかしら」「最明院さま、見てはなりません」「そうでございます、目の毒です」


 金髪くるくるヘアお嬢様はそう言って、腰巾着と一緒に、女子高の目の前にある熊本ラーメン屋「オウヘ」の店内へ入っていった。


(今、ゴミ捨て場で弁当食べてるとか言ってたな)


 嫌な予感がする。

 信号が青になり、俺はすぐに自転車をこぐ。ゴミ捨て場に向かって。

 収集車の陰に隠れていた位置がどんどん見えてくるにつれ、「百合香ちゃんじゃありませんように」と願う。家だけならまだしも、学校にいるときでさえゴミ捨て場に座ってるなんて、見過ごしてはおけない。


 見えた!


 紺色のセーラー服に薄い水色スカーフ、襟には白い縞が三つ。無防備なことに体育座りをしていて、スカートのひだはだらんと伸びて地面に付いている。膝小僧が見えている。ハイソックスが膝の直下までを覆い隠していている。黒のローファーを履いている。

 絶対領域どころか、ローアングルだとぱんつも見えてしまう格好だ。まずいぞ、


「百合香ちゃん」

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