学校の日
第16話 美少女の態度が180度変わってた
ついに、学校に登校しなければならない日が来た。控えめに言ってクソ面倒で、全然行きたくない。なんなら講義室の天井が崩落していて休講になってほしい。
「なんて」
そんなことは起こり得ない。
孤独、留年。思考は、19歳の入学当時に比べて退廃してしまった。
「ダメだ。どう考えてもダメすぎる、この思考は」
親や
俺は、冷たいドアノブをぎゅっと握りしめ、深呼吸をし、勢いよくドアを開けた。
明るく行こう、勇ましく進もう。
「!」
隣のドアから、隣人が同じタイミングで出てきた。
紺色のセーラー服に薄い水色スカーフ、襟には白い縞が三つ。スカートのひだは規則正しく並び、ジャスト膝小僧の位置に裾。ハイソックスが膝の直下までを覆い隠していて、黒のローファーを履いている。
可愛い。でも個人的に、絶対領域が拝めないのが悔しい。
「百合香ちゃんおはよう。今日は久々の登校日だ。元気に学校生活を楽しんで来るんだぞ。俺はぼっち&無言の予定だけど。友達とか一人もいないし作る気もないし」
「……」
「百合香ちゃんは高校生かぁ。若いっていいなぁ。俺なんて青春をドブに捨ててしまったやつだから、高校時代なんてなんも思い出ないんだよ。百合香ちゃんは俺みたいにならないように、友達とたくさん思い出を作るんだぞ?」
「……」
見れば、百合香ちゃんの表情は不気味なほど無表情だ。
「ゆ、百合香ちゃん? 大丈夫か?」
「……っ」
どうしたんだろう。百合香ちゃんが一言もものを言わない。
「百合香ちゃん?」
「……」
「オレンジのいい匂いがするよ」
「へ、へんたいっ。…………」
浮かない顔。昨日まで愛くるしい猫みたいにベタベタひっついてきた人間とは思えない。沈んだ雰囲気、心なしか立ち姿も寂しい。
「学校、一緒に行こうか?」
「ヘンな目で見られます」
「2m後ろをついて歩こうか?」
「ストレートにストーカー発言しないでください」
昨日とは打って変わってとげとげしい。こげ茶色のセミロングはきちんと
「それじゃ、私は先に行きます」
速足で、三段しかない階段を駆け下りる。そそくさとアパートを離れてしまった。
「ちょっと待ってくれよ」
追いかける俺。というか俺もここで突っ立ってるわけにはいかないんだった。
「ついて来ないでください、警察呼びますよ!」
「え」
そんなこと言わなくても…………
あんなにいっぱい甘えてくれた美少女にこうも冷たくされると、腐敗・退廃・荒廃・25歳男でも心が傷つくなぁ……
「初めてセーラー服姿見れたのに……」
セーラー服、可愛いね。
言いたかったそのセリフは、シアンブルーの虚空に流れ飛ぶ。
「俺、怒らせちまったのか?」
百合香ちゃんに会ってから、時には厳しめに接することもあった。主に百合香ちゃんの健全を保つために。それが重荷になっていたんだろうか。
「……」
分からない。百合香ちゃんが冷たくなった理由が。
「って今何時だ⁉」
AM8:11
「やばい! 10分には出ないと遅刻するってのに!」
自転車のカギを慌てて外し、スタンドを思いっきり蹴る。
「あ」
きっと百合香ちゃんはまだこの近くを歩いているはず。すれ違ったら気まずい。
一方、時間は待機してくれない。このままだと遅刻確定。
「いってきまーす」
逡巡していたら、前方の一軒家からJKっぽいのが出てきた。声は田舎っぽい。のほほんとした挨拶は癒されるが、田舎っぽい。短い髪を無理に二つ結びにして、2つのちょんまげとまでは言わないけれど、ツインテールやおさげとはほど遠い。
(あの一軒家の娘、百合香ちゃんと同じ学校なんだな)
制服が百合香ちゃんと一緒だ。紺色のセーラー服に薄い水色スカーフ、襟には白い縞が三つ。スカートのひだが並び、膝小僧の少し下、中途半端な位置に裾がきている。ハイソックスが膝の直下までを覆い隠していて、黒のローファーを履いている。
百合香ちゃんと同じか、ほんのちょっと高いくらいの背丈。
特に可愛くない。田舎っぽい。
髪の毛の色もこれまた中途半端で、黒というには濃さが足りず、灰色というには白みが不足している。かといってダークグレーというカッコイイ言葉は似合わず、ねずみ色と表現するには醜さが足りない。
「仕方ない、盗撮してカラーコード調べよ」
パシャッ
「ほー。#0A2A29か。赤10、緑16×2+10=42、青16×2+9=41。なるほど緑と青が多いのか。でも色が黒めだから気づきようもないわな」
調べると、水色(シアン)系の暗い色だということが判明した。
シアン
「ちょっと、おじさん」
「あっ」
「何してるねん。キモいで?」
ヤバい。バレた。
「訴えないでくださいお願いします!」
「いやそこまでせぇへんけど。取り敢えず画像消してるとこウチに見せや?」
「はい直ちに!」
こんな可愛くないJKに命令されている。百合香ちゃんがいかに最高だったのか、このどうでもいいJKを通して気づくことができた。
「そいじゃ。二度と盗撮とかせんときや。ウチのカラダ、別に写真撮るほどの魅力もないやろ」
「……はい」
むっと怒る一軒家JK。瞳の色のほうは、ダークグレーと評価してやってもいいレベルだ。
「気が変わった。明日からウチのこと盗撮しまくりや。スマホの容量がパンパンになっても続けるんやで、ええな?」
「パンパンになったら保存でk……」
「ええな?」
むんず、と胸倉をつかまれる。痛い上に屈辱的、嬉しくないし関わりたくない。
満足したのか、一軒家JKはそそくさと立ち去った。
「って、だから遅刻するんだって!」
時刻はAM8:16。記録では、一度だけギリギリ遅刻せずに済んだことがある。ただそれは、信号を無視したり、とんでもない追い越しをやったりと、そういう危険な
「遅刻か…………」
また親に罪悪感を抱くハメになってしまった。今日はイレギュラーが立て続けに起こったとはいえ、25歳の留年野郎にそんな言い訳は通用しないだろう……。
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