第18話
あの後結局、服を選ぶだけで3時間も使ってしまい、他のお店を周る時間が無くなってしまったが、2人の見立てはとても素晴らしく、良い買い物ができたのだった。
疲れにくくなっているとはいえ、長時間の買い物でクタクタになってしまった私達は、飲み物を買ってベンチに座った。
都会の女子高生がよくやるやつだ...!!
小さな感動に包まれながら、ストローを口に加える。結構喉が渇いていたみたいで、冷たい炭酸のジュースが心地よく美味しい。
しばらくそのままお喋りをしていた私たちだったが、リリカが少し言いにくそうに口を開いた。
「セラは、将来の事とか...考えてる?」
「将来のこと?」
横にいるリリカを見るが、彼女の視線は手元のジュースに向けられていて、横顔からでは表情が読めない。
「そう。大人になったら何がしたいとか、どんな人になりたいとか」
私は言葉に詰まった。
“セラ”にはやりたい事があった。よくわからないけど、多分...とても大切で大きな夢が。
でも、今の私は...?
自分なりに“セラ”になりきろうとして、過ごしてみたけれど、どうしても私は彼女にはなれなかった。もちろん、だからといって、死ぬ前の私にも戻ることはできないのだ。
セラという“私”の将来。私はいったいどうしたいのだろうか...。
私が何も言わないのを感じたのか、リリカが話を続けた。
「私はね...おじいちゃんの会社を継ぐの。お父さんもお母さんも自分の会社があるから、私にやらせたいみたい。小さい頃からいろんな事を教わって、たっくさん勉強したんだ」
「そう...」
リリカが学校の勉強だけじゃなく、いろんなことを教わっている事は何となく知っていた。でも、後継者になるだとか、そういうことは知らなかった。
だって。パッと見た感じでは、言い方は悪いけど、正直“世間知らずのお嬢様”にしか見えないのだ。
とても人見知りだし、なんでもすぐにお金を出しちゃうし...
「進む道が最初から決まっているって事が、窮屈に感じるかもしれないけど、私には合っていたみたい。全然嫌じゃなくて、大好きなおじいちゃんと同じ道に進めるって、喜んでたんだけど...」
リリカは私の顔をじっと見つめた。
「誰かの上に立つっていうのは、それだけじゃダメなんだよね。人を導いたり、何が必要なことなのか、きちんと判断できないとダメなの」
「この間、セラに言われて気づいたんだけどね」
そう言うと、私の方を見たまま、彼女はへらりと笑った。
「私は、みんなが憧れているセラに投資して、対等以上の関係になろうとしていたのかもしれない。お金で友達を買っていたのね...本当にごめんなさい」
「あやまらないで!」
リリカの謝罪の言葉を否定する。
リリカが謝ることは無い。“セラ”はリリカの気持ちを利用していたんだ。悪いのはどう考えてもこちらに決まっている。
「私の方こそ、ごめんなさい!お金だって、絶対返すか「いいの!」」
「え?」
「実はね...今回のことをおじいちゃんに相談したの。そしたら”いい勉強になったな。これは勉強代だと思いなさい。そうして成長すれば良い”って!」
勉強代って...
何と言ったらいいのか分からず混乱している私とは対照に、リリカはどこか吹っ切れたように、ふふふと笑っている。
「でも...それじゃあ、本当の友達になれないじゃない!ちゃんと対等な関係で、お互いを想い合える...そんな友達なりたかったのに!」
そう。彼女はこちらに来てから、初めてできた友達なのだ。こんな異様な関係では友達とすら呼べない。
「セラ...ありがとう。でも大丈夫よ!私は、未来の貴方に投資したの!月に行って、何か発見したり、作ったり、考えたりしたりしたら一番に教えてね!大切な友達として、協力したいから。ね?」
泣きそうな私をあやすような、励ますような言い方だった。気づかないうちに、この短期間で彼女は成長していたのだ。
だったら私も、彼女の思いにこたえなくては。
...友達として。
「私、頑張るね。ちゃんとリリカの期待に応えられるように...私の進む道を見つけるよ」
そう言うと、彼女は少し嬉しそうに頷いた。
リリカの投資を、絶対無駄になんかさせない。そして私も成長しなくちゃ。いつまでも“セラ”に頼ってばかりじゃダメなんだ。
“私”が生きていくために。
田舎者は地球に帰りたい(仮) 兵頭 七日 @snk7
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