第14話
その日の夜、夕食を食べ終えた私は家族に今日決まってしまった事を相談する事にした。
「卒業したら家を出たい?また急ねぇ...」
「ご、ごめんなさい...」
「誰かと会社作るんじゃなかったっけ?」
“誰か”というのは“ゼスラ”の事だ。しかし、リリカの援助を断る事にしてしまったので、会社を立ち上げることは現実的では無くなっている。
「えっと...きちんと経験を積んでからの方が、いいかなって。こ、このままじゃ不安だし!」
「ふぅん」
妹のロカは食後のケーキを食べるためのフォークを咥えながら、疑いの目を向けている。セラの妹だけあって、彼女もとても頭が良い。ゼスラの時のようにうまく誤魔化されてくれるだろうか...
「だからって...家を出なくても...」
母さんは、単純に心配している顔だ。騙しているようで心苦しい...
「わ、私!!ムーンへ行ってみようと思うの!あそこなら...「「ムーン!?」」」
2人は顔を見合わせて、目をまん丸にして驚いた。
月へ行く事に関して、ゼスラはそこまで驚いた表情にはならなかった筈だ。いくらここからとんでもなく離れているとはいえ、今の科学技術では1週間ほどで着けると聞いている。そこまで驚かれる事なのか?
私が訳がわからないよというように、頭にハテナを浮かべているのが分かったのか、ロカは少し気の毒そうに切り出した。
「ムーンは...無理じゃない...?」
「なぜ?」
「何故ってあなた...シャトルに乗れないじゃないの!」
何!?月へ行ける唯一の移動手段。“シャトル”に乗れないとはどういう事?
「え!?え、えっとーそれは...?」
動揺を隠すようにウインタのほうを盗み見た。目が合うと、彼も少しだけ驚いたような顔をしたが、軽く頷いてくれた。よかった...助けてウインタ!
「ええ...お二人のおっしゃる通り確かにセラ様は、閉所・暗所恐怖症により、普通のシャトルには乗ることは出来ないでしょう。しかし近年、そういった人向けに、スリープ状態にして移動するといった方法もございます」
ん...?今なんて言った?私が“恐怖症”?セラになり切る為、彼女の記憶はほとんど掘り起こしてきたが、そんな記憶は無かった筈だが...。
内心冷や汗大量発生中の私とは反対に、2人はウインタの説明に納得している様子だった。つまり、分かっていないのは私だけという事か...
「へぇ〜そうなんだ!」
「あぁ...この前どこかで聞いたことあるかも?」
「そ、そう。だから大丈夫!」
全く何も大丈夫では無かったけれど、ボロが出る前にさっさと話題を変えよう。
「そ、それより!ウインタを連れて行きたいんだけど、いいかな?」
私は恐る恐る訪ねた。2人は、さっきの驚きの表情は何処へやら、何を当たり前の事を言っているのかと言わんばかりにニヤリと笑う。
「え?むしろ一緒に行かないという選択肢があることに驚いたよ...」
「ええ。それに、ウインタが一緒のほうが私達も安心だわ」
「あ、ありがとう!」
とりあえず、ウインタ問題は解決だ。少し落ち着き、お茶を飲む。
「ところで、セラは月で何をするのか決まってるの?」
「うーん..,まだ、はっきりとは決めてないけど。私を必要としてくれている人がいるらしいから、自分にできる事があるなら、できるだけ頑張ってみようと思ってるよ」
ロカは少し柔らかく笑った。
「セラ、なんかちょっと変わったよね」
話しかけられ、母さんも同じようにフワリと笑う。あまり笑わないから気付きにくいが、ロカは本当に母さんそっくりだ。
「そうね...」
母さんは正面に座る私の手を握った。
「でもね、セラ。あなたを必要としている人は...ここにも2人いる事を忘れないでね?」
「たまには帰ってきてよね...お土産よろしく」
「ロカ!なによそれー!」
母さんの真剣に子供を心配する目を見て、心が泣きそうになった。しかし、すぐ後のロカの言葉でみんなが笑った。
私には数週間しか居なかった場所だけど、ちょっと離れ難く、寂しい気持ちになるのは、“セラ”の記憶を持っているからだけでは無い気がする。
「まぁ...でも、ここ最近は明るいセラに戻ってきてくれて良かった。“あの人”があんな事になってから、すっかり引きこもってしまうようになっていたから...」
お母さんの言葉に空気が少し張る。ロカも気まずそうに目線を下げる。
分からないのは、また私だけ...?
「お母さん、“あの人”って…「セラ様」」
私の言葉を遮るようにウインタが話しかけてきた。とても珍しい。
「明日は、リリカ様とご予定がありましたね。そろそろ戻って、準備をしておきましょう」
「う、うん?そうだね」
顔はいつものように笑ってはいたが、ウインタの有無を言わせないという雰囲気に押されて、私は言われた通り部屋へ戻る事にした。
「ウインタ?どうしたの?」
部屋へ戻り、さっそくウインタに尋ねる。彼は顎に手をやり、何かを考えているようだったが、困った表情で話を切り出した。
「セラ様。もしかすると...?とは、少し前から思っておりましたが」
「?」
「お父様の記憶を思い出せないのでは無いですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます