第13話
私はゼスラに、これからはリリカの援助金を断わろうと考えている事、卒業したらレディスを出ようと思っている事を全て話した。彼は私が話終わるより先に、彼は怒りでコップをテーブルに叩きつけた。
「はぁー!?なんだよそれ!!意味わかんねぇっ!!」
ただでさえ大きな声なのに、今はその3倍くらい出ている気がする。耳を塞いで、出来たら目も閉じて、縮こまりたい気持ちをグッと堪える。
「あのマシンだって、まだちゃんと動くかもわからねーのに、金が無くてどーすんだよ!?」
「うん。わかってるよ」
「いいやぁ!!!わかってない!!なんだかお前変だぞ!?あの事故があってからだよな?どうした?怖くなったのか!?」
「違うよ!作ることはちゃんと、楽しい」
これは本心だった。ウインタと一緒に作業している間、私はずっとワクワクしっぱなしだった。最初こそ、これはセラの条件反射のような、セラ自身の反応だと思っていた。でも、完成させてしばらくたった今でも、その気持ちは忘れられなかった。多分、今まで関わる事が無かったから、気付いてなかっただけで、自分に合っている事なのかもしれないと気づいた。
でも、うまく説明できない。私は口をつぐんだ。その様子を見て、ゼスラはさらに怒りを増した。
「だったらなんだよ!?」
「...失礼ながら、口を挟んでもよろしいでささょうか。」
先ほどから黙ったままのウインタが、口を開いた。ゼスラは彼がいる事を忘れていたのか、それとも勝手に話すとは思わなかったのか、びくっと身体が跳ねた。
「セラ様が何故、急にこのような事を言い出したのか説明いたします」
「ウインタ...?」
一体何を言うつもり...?まさか、本当に全部言うつもりなの?いやいや、彼はとっても優秀なのだ。そんな考えなしではないはず...たぶん。全く変わらない笑顔の表情からは、考えが読めない。
「言ってみろ」
ゼスラはさっきので少し落ち着いたのか、椅子に座り直してくれた。ウインタは短くお礼を言うと、そのまま喋り出す。
「セラ様は、あの事故から自分の未熟さを思い知らされたのでございます」
「未熟さぁ...!?」
「はい。数ヶ月もかけて、入念に準備をして作り上げたものがまさかの大失敗。それだけではなく、ご自身も大怪我を負うことになってしまいます...自分の能力を過信したこの結果に、セラ様は酷く落ち込まれました」
「...なるほど?」
ゼスラはウインタのやり過ぎなくらいの演技に、まんまと引っかかっている。先ほどまでの怒りの眼差しはどこへやら?途端に哀れみの目線でこちらを見ていた。
私は吹き出しそうになるのを堪え、ウインタの話に合わせて悲しげな表情をしてみた。
「次の作業に取り掛かるのが遅くなったのは、研究から離れて気分転換をしていたからなのです。いわば心のリハビリです」
「そうだったのか...」
こらこら、簡単に引っかかりすぎじゃないか?ちょっと心配になってきたぞ。
「しかし!セラ様は、これではダメだと思い、優秀な技術者達が宇宙一集まっている“ムーン”へ行くことで、自分を鍛え直すことにしたのです...!」
ん?そんな話したっけ?ムーンって、まさか月のこと!?
ゼスラは、顎に手を当てて何かを考え込み始めた。すかさずこっそりとウインタを呼ぶ。
「...どう言うこと?」
「先日、セラ様はご自分の事をお話してくださいましたよね?その時、自分の故郷へ帰りたいとおっしゃっていました。しかし、アースはもはや人が立ち入る事が叶わない場所。ならば少しでも近くへ行きたいと考えるのでは?と思ったのです」
小声で言うとウインタは、清々しい笑顔で笑っていた。
きっと、私がここのところ宇宙地図を見たり、月への行き方を調べたりしていたのを知っていたのだ。改めて彼を味方につけられて、本当に良かったと思う。彼はなんでもお見通しだ...
「確認だけど、作るのが怖いとか、嫌になった訳じゃないんだよな?」
「え、うん!」
「よし!なら決めた!俺もムーンへ行く!」
「へ?」
思わず変な声が出た。これはまずい展開なのでは?冷や汗が頬を流れる。
「ムーンのラボから、いくつかスカウトの話が来てたんだけど、お前とラボを作る予定だったから無視してたんだ。でも、お前がそういう考えなら、俺も行く!ムーンの最先端技術、盗めるもんは盗んで損はない!!わはは!」
「ちょ、ちょっと!」
「そうと決まれば、卒業まで待つ必要もないな!俺は先にムーンへ行く!!さっそく家にいる帰って準備だ!!」
そう言うと彼は、コップの飲み物を一気に飲み干し、勢いよく立ち上がった。
「お前にも、スカウトは来てると思うけど、さっさと決めねーと間に合わないぞ!!」
「間に合わないって...?」
全く話についていけない。説明を求む!!
「セラ様方は、もうすぐ卒業となります。卒業前になると募集を締め切られてしまいますから、希望するラボで働くならば急いだ方がいいでしょうね」
「...まだリハビリが必要なら、お前は卒業してから行けばいい。でも!何処へ行くかはさっさと決めとけ!!じゃあな!!!」
ゼスラは嵐のように去っていった。彼の声で、耳がキーンとしている気がする。
ただ地球を見たいがために、月を調べていただけなのに、かなり大事になってしまった。
それに、“セラ”を知らない人達がいる場所へ行くつもりだったのに、ゼスラが来てしまうなんて...これから私はどうなってしまうんだろうか。
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