第10話

(これは...一体?)


 次の朝スクールへ行ったはいいが、次から次へと女の子達が集まってきて、あれよあれよと周りを包囲され、身動きが取れなくなってしまっていた。




「大怪我をされたんですよね…」

「お身体は大丈夫ですか!?」

「わぁ!髪が短くなってる!!」

「長い髪はもちろん美しかったですが、短いのもとてもお似合いです!」



 呆気にとられている私を置いて、周りの女の子達が矢継ぎ早にいろいろ言っていたが、聞こえてきた声の内容をまとめるとこんな感じだ。



 セラの記憶を思い出す。セラは他の女子と比べても、かなら背が高い。そしてなにより顔が良い。そのおかげでとにかく女子からモテているらしい。


(ふふ。驚いたけど、これはちょっと気分が良いかも?)


 顔がニヤリと笑いそうになるのを抑えた。







「えっと...心配かけてごめんね。ありがとう」




 私がそう言うと、さっきまでの騒がしさはどこへやら。ガヤガヤとした雰囲気が無くなり、ピンとした空気が張り詰めたではないか。




(みんながこっちを見てる...!?)


 急いで周りを見回すと、女子たちはフリーズしてしまっているし、恨めしそうにチラチラとこちらを伺っていた男子生徒ですら、足を止めギョッとした顔でこちらを見ていた。





(まずい!!何か間違った!?)


 頭の中で記憶を探すより先に、女の子達の悲鳴に近い歓声の声が頭を響かせた。




「キャー!!」

「今の聞いた!?セラさんが...ごめんねと...!!」

「私...初めて...」

「それよりも!ありがとう!ですよ!?」

「まさか、お礼を言ってもらえる日がくるなんて...」




(謝罪と感謝の言葉を伝えただけで、この騒ぎよう...って、泣いてる〜!?)


 余程私が言った言葉が、よっぽど珍しかったらしい。女の子達は更に近づいてきた。



 改めて、セラの記憶を思い出す。


 セラは基本的に他人に興味が無い。なので、話しかけられても無視していたらしい。




(そんな人間本当にいるんだ)


 この性格のままセラとして生きなければならないという現実に、気が遠くなってきた。


 あと、もう少し早く、スッと思い出して欲しい!!!


 騒ぐ女の子達に囲まれ、私は固まることしかできなかった。




「おーい!セラー!!」


 呼ばれた方を確認すると、人混みをかき分けながらやってくる男子生徒がいた。友人?のゼスラだ。


(いや、?って何よ!)




「今日はいつにも増して凄いな...ほら!解散解散!!」


 ゼスラが横に立つと、彼女たちは惚けた顔のままフラフラと去っていった。これでようやく、歩けることができそうだ。ゼスラの横に並んで教室へと歩く。




「そんなことより!あれはできたか?」


「あれ...?あ、あぁ。できてるよ!」


 あれとは、ウインタと一緒に完成させた機械のパーツのことだった。彼は一段と目を輝かせる。



「事故があったようだから、心配してたけど、やっぱさすがだな!!」


「ま、まぁね」


 怪しまれないように、無難な返事をしておく。


 改めてゼスラを見ると、目線が少し下なのでたぶんセラより身長は10cmほど低い。セラ同様、腕や身体には筋肉がありそうだった。話し方は歳の割に幼く感じる。セットもされていないボサボサな髪型だが、眼鏡のせいか頭が良さそうに見えた。


(あと、ちょっと声がでかい)




「じゃあ、終わったらラボ行くから、よろしくな!」


「わかった」


 教室に着くと、ゼスラは手を振って去っていった。




(あぁ...この感じ)


 ゼスラと話していると、前の記憶で住んでいた家の近所の小学生を思い出す。やんちゃで、悪戯好きの男の子だ。


(私もよく虫のおもちゃを投げられたりしてたっけな...)

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