第1話

 体がふわふわと浮いているのがわかる。あんなに痛かった身体の痛みは、まったく無くなっていた。少し身体を動かすと、とてもゆっくり髪の毛が顔にかかった。その動きと、手の感覚で、自分が水の中にいることがわかった。お風呂ほどではないが、暖かい水の中はとても心地が良い。


(あぁ...気持ちいいなぁ。このままもう一度眠ってしまいたい...)

 身体の痛みは無いものの、身体は酷く疲れているようだった。本当に眠たくてしょうがないのだが、先ほどから私の思いとは反対に、強い光が当たるのがわかった。


(何...?)

 恐る恐る目を開ける。しばらく目を開けていなかった為か、光がとても強い。ゆっくりと目を慣らしていくしかない。

 目が慣れて、辺りを見回してみたが、どうやら私は透明の筒?のようなものに入っているらしい。手を伸ばしても壁にぶつかってしまった。

 そしてようやく異変に気づく。


(水の中なのに息ができる!?)

 当たり前のことだけれど、普通の水ならば息をすることは出来ないはずだ。でも、間違いなく今、私は息をしている。


(この身体...私じゃない)

 そう、一番の異変は身体が私のものではないと言う事なのだ。あれだけ傷だらけだったのに、怪我もなく、長さ、細さ、色、爪の形、どれをとっても見慣れたはずの私の身体ではなかった。


《NO.8240、意識レベル回復》

 耳元で機械のような音声が流れた。


「ここはどこ!?」

 声を発するものの、水のようなものによって消されてしまった。ごぼごぼと、音がしただけだ。


《パニックを起こしています。次のケアに移ります。どうぞ落ち着いて、深く息をして下さい》

 また、同じ音声が流れると、足元の方から少し暖かい水が流れてきたのがわかった。水の中にいるのに、干したてふかふかのお布団に、包まれていくような心地よさだ。まぶたがどんどん重くなり、睡魔に負けていった。

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