田舎者は地球に帰りたい(仮)
兵頭 七日
プロローグ
(あぁ...これが無重力...?)
自分の身体がふわりと、宇宙に放り出されたかのように舞い上がり、浮いているのを感じた。
だけどまぁ、そんなのは一瞬で、ぐしゃりと言う大きくてとてつもなく嫌な音とともに、激しい痛みが襲ってきたのだけれど。
(どうしてこんなことになったのか...)
流れている血を眺めながら考える。友人と隣町の映画館へ行き、大好きな映画の最新シリーズを見た帰り道、余韻に浸りつつ、浮かれ足で階段を降りようとしたのがいけなかった。
足がもつれて、ぱーんと投げ出された身体は階段を転がり落ちるでもなく、そのままキレイに真っ逆さまだった。
身体中が痛くて痛くて、声も出ない。近くで友人が叫んでいるのがわかったが、返事ができない。
でも、その痛みも徐々に薄くなっているのがわかった。人間は死ぬ間際になると、痛みから逃れるようにできていると、どこかで耳にしたが、本当だったようだ。
(これだけ血が出ていたら死ぬだろう)
頭だけは何故か冷静に、客観的に状況を判断していた。
(まだやりたい事、あったのになぁ...。仕事も頑張りたかったし、結婚したり、子どもを育てたりしたかった。美味しいものも、もっと食べたかったし、行ったことのない場所へ行きたかった。
それに!今日見たあの映画だって、続編製作決定って予告していた。宇宙飛行士の主人公が、仲間とともにハラハラドキドキの冒険をし、ようやく新しい星を発見したところだった。
それに比べて自分は、うっかり階段から落ちて死ぬなんて、なんともまぬけである。)
薄れゆく意識の中、アスファルトの隙間から小さな黄色の花が咲いているのが見えた。
(可憐な花だ。こんなところで咲いてるなんて。きっとあの花も波乱万丈な人生だったに違いない。自分も生まれ変われるなら、花になって、自然に揉まれながら生きるのもいいかもしれない。
いやでも、それだと、映画はもちろん漫画や小説、何も見れないじゃないか。それは困るなぁ。
じゃあ、やっぱり人間?すんごい未来とかなら、あの映画の世界みたいになってるかも?
ふふ...いいね。
車が空を飛んでたり、ロボットが家事をしたり、宇宙人もいたりして。
あ、どうせなら美少女でお願いします。背の高い男前でもいいです。ついでに頭も良くて、お金待ちだといいなぁ...それから...)
風に揺れる名前も知らない花を眺めつつ、呑気にもそんな事を考えていたが、だんだんとまぶたが重たく、身体が冷たくなっていた。
(どうか神様。全部叶えてくれとはいいません。来世でも、好きなものに出会えるだけでいいのです。)
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