シキヨクマー幹部会議

 某月某日の某所の某地下にあるシキヨクマーの会議室でのことだ。

 描写の意味を成さずに結局どこにあるのか不明な会議室で、瀟洒なリクライニングチェアに座った醜悪な容姿の古参幹部たちのどよめきが響いた。

 グラドルレンジャー打倒に名乗り上げた若い銀髪美男に、古参幹部三人が口々を憤懣をぶつける。

「貴様のような優男に現場がわかるか」

「ギャルゲの後任にはふさわしくない。眉目秀麗を改めろ」

「現場出身のギャルゲでさえ徒花と散ったのだぞ。貴様などにグラドルレンジャーが倒せるか」

 美男は古参幹部の詰りを泰然とした態度で聞き流し、どよめきが鎮まると同時に口元に嘲るような笑みを浮かべる。

「僕はすでに動き出しています。あなた達が様子見をしている間に、僕の作戦は着々と進んでいたんですよ」

「何を言う。現在のグラドルレンジャー五人の戦闘力を見極めるために、我々は手を出していなかっただけだ」

「反論があるならいくらでも聞きますよ。でもあなた達がグラドルレンジャーを討伐できる日は来ない」

「青いな。拙速にも程がある」

「青くて結構ですよ。高級な野菜は青さが残っているうちが一番美味しいですからね。あなた達はせいぜい完熟を過ぎた腐った野菜でも食べればいい」

「生意気な」「我々を見下しよって」「飄々としていられるのも今のうちだ」

 古参幹部は憎々しげに美男を睨みつけ、思い思いに言い放つ。

 そんな紛糾する会議室の中央で、ホログラムのモニターが前触れもなく投映された。

 突然出現したモニターに古参幹部三人は居住まいを正し、銀髪美男は余裕めいた微笑を湛えた。

「どうだ。会議は順調か?」

 モニターの画面一杯に、ピンクのパンティを頭に被って、顎から頬にかけてを男物のブルーのボクサーパンツで覆った男の顔が映る。

「首領!」「首領!」「首領!」

 三人の古参幹部はモニター越しに男へ敬礼を送る。

 しかし首領と呼ばれた男の視線は、唯一自分へ敬礼を送らない美男に向いていた。

 首領は眉をしかめる。

「お前のスカした顔を見ていると、直接殴りたくなってくる」

「それは光栄です。首領自ら手を下してくださるとは」

 美男は口では敬意を表しつつも、口元には余裕めいた笑みが浮かんだままだ。

「……お前のそういう態度が気に食わんのだ」

「それは失礼しました。しかし、僕を幹部に引き上げたのは首領ご自身ですよ?」

「お前の能力を見込んでの事だ。それ故にお前には期待している」

「ご期待に添えるよう尽力したします」

 首領が後事を委ねる視線で美男を凝目する。

「そうか、頼んだぞ」

「お待ちください、首領」

 古参幹部の一人が椅子から立ち上がって、モニターの首領を厳しい目で見返す。

「こんな若造にグラドルレンジャーの件を任せると言うのですか?」

「……若造か。確かに現場叩き上げのお前たちからしたら、実戦経験のない若造かもしれんな」

「それでは考え直すべきです。グラドルレンジャーズの件は私を含め現場出身の我々にお任せください。必ずや打倒してみせます」

「お前たち老兵の出る幕ではない」

「なっ!」

 首領の切り捨てるような言葉に、古参幹部は驚愕で言葉を失くした。

 長い間、シキヨクマーを支えてきたのは我々だ。

 しかし相手はシキヨクマーにおいて最高の地位にある首領だ。悔しい思いが喉に迫り上げるのを努めて抑える。

 内心で臍を噛む三人を横目に、美男は首領に告げる。

「僕はやることがありますので、これで」

「期待しているぞ」

 首領の物静かな激励の言葉を受けて、美男は会議室を出ていった。

 彼を見送った首領の映ったモニターが用事は終わったというように消える。

 急に静かになった会議室に、進言を試みた幹部の一人が苛立ちを露に吐き捨てる。

「何故だ……何故、首領は我々を信用してくださらないのだ」

「わしにもわからん」

「同意だ」

 古参幹部三人は互いの不満の顔を見合った。

 彼らの不安げ声は、しんと静まり返った会議室で異様に響いた。

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