第六話 新たな刺客登場! 征服はパン屋から? 

なんでもないアルバイトの光景

 十一月の中旬、すっかり冬の息吹が街に浸透し始めた頃。

 カラオケ店のガラスの自動ドアを潜って、三人連れの女子高生が入ってくる。


「いらっしゃいませ」


 楠手は白の紙マスクの下に商売スマイル作って、カウンター越しに三人連れを出迎える。


「学割で三人ね」


 三人連れの真ん中にいた、やたらカーディガンを気崩した金髪カールが、億劫そうな口ぶりで告げる。


「機種はどちらにいたしましょうか?」

「どっちでも」


 金髪カールの返答に、楠手は手元のタッチパネルを操作する。


「それではジェイサウ……」


 部屋に空きの多かった方の機種を選んで読み上げようすると、金髪カールの右隣でスマホをいじっていた茶髪カチューシャが不満で口をすぼめる。


「えー、あっし、ヘイミュージックがいいんだけど」


 好みがあるなら店入る前に決めといてよ、と楠手は文句を言いたかったが、堪えて応対する。


「ヘイミュージックで、よろしい……」

「ちょっと待つし。明美はどっちがいい?」


 茶髪カチューシャは楠手の言葉を遮って、楠手から見て左に立つピンク髪ロングに訊いた。


「ワタシはなんでもいいよ。点数が出るやつなら」


 さらっと条件を出してなんでもよくないじゃない、と楠手は心の中で突っ込む。

 それでも貼り付けた笑顔で三人連れに尋ねる。


「学割で三人、機種はヘイミュージックでよろしいですね?」


 金髪カールだけが頷き、茶髪カチューシャとピンク髪ロングは何も言わず急かすように楠手を見つめている。

 楠手は溜息を吐きたい気分を我慢をして、タッチパネルを操作して三人連れの注文を入力していく。

 ドリンクのコップと注文時間と料金が印刷された小さい紙を楠手からもらった三人連れは、学校での話をしながら階段を昇っていった。


「大変ですね、楠手さん」


 フライドポテトをトレイに載せている、正規店員になって三か月近くの速水が、労わるように楠手に話しかける。


「大変も何も仕事だからしょうがないよ、速水君」


「ははは。楠手さんは弱音吐きませんね。最近はシフトも増えたのに、無理したらダメですよ。また入院することになっちゃいますからね」

「大袈裟ね。あの入院はそういうんじゃないんだって」

「それじゃ、なんで入院してたんですか?」

「それは言えないけど……とにかく速水君は配膳しないと。フライドポテト冷めちゃうよ」

「そうですね。いってきますよ」


 トレイを少し掲げてみせると、速水はカウンターを抜けて身軽な身のこなしで階段を上がっていった。


「はあ」


 彼の後姿を眺め、楠手は思わず溜息を吐く。

 速水君は二十四歳で正規スタッフ、それに比べて私は二十六歳でバイト。店長の正規スタッフの申し出も有耶無耶なままだし、ここ三か月招集がないとはいえ、グラドルレンジャーズの任務が不定期だし、とても定職には就けない。

私これからどうなるんだろう、と楠手は前途に明るさを見出せなかった。

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