約束

「あの時は助けていただき、ありがとうございました」

 誘拐被害の翌日、旅行先から帰ってくる両親の出迎えのため、光那は先日に新城と待ち合わせた駅で、見送りに訪れたグラドルレンジャー五人に心からの礼を口にした。

「当然のことをしただけだぜ」

 と栗山が少し緩んだ口元に感謝される嬉しさを溢しながら言った。

「礼を言われるほどのことでもないぜ」

「なんて言いつつ、ほんとはかなり喜んでるよブルーは」

 楠手がからかいの調子で口添えする。

 うるせぇよ、と栗山は言い返しつつも否定はしなかった。

「あの時はごめんなさいね、水森さん。何の関係もない抗争に巻き込んでしまって」

 西之森が申し訳ない気持ちがして謝った。

 気にしてません、と光那は小さく首を振る。

「世の中、自分の身に何が起きるかなんて予想が付きませんから」

「大人です、光那ちゃん」

 上司が羨望を籠めて呟いた。

「私まだそんな風に達観できてません。お母さんにもよく昔から、ちっちゃいことまで気にし過ぎ、とか言われてます」

 上司の口にしたエピソードに、ふふふ、と新城が笑い声を漏らして言う。

「私からしたら光那ちゃんも、まだまだ子供っぽいところがあるわよ」

「三十路を超えた女は言うことが違うな」

 悪意なく栗山が呟いて、敬いの目で新城を見つめた。

 その後の彼女たちのお喋りの間も時間は進み、光那の乗る列車の発車時刻が迫ってきた。

 頃合いになり五人は光那に、改めて真剣な顔を向ける。光那と血縁関係にある新城が五人を代表して告げる。

「光那ちゃん。約束は守って。仲の良い人にもけっして私達の正体は話さない」

「はい。何があっても話しません」

 光那は固く誓った。それから踵を返して、改札に足を進ませた。

改札を抜けてホームへ降りていく光那の姿を、五人はまばらにいる他の乗客の身体で見えなくなるまで見送った。

「さあ、見送りも終わったわ」

 真面目な調子が抜けた、朗らかな声で新城が言う。

「それぞれ予定もあることだし、帰りましょうか」

「それにしてもよ」

 栗山がふと思い出したように口に開く。

「よく木田の野郎も記憶消去しないことを認めてくれたよな。拝み倒したら、渋々だったけどうむ聞き入れよう、だもんな」

「確かに、頑として認めないって言いそうな人だしね」

「光那ちゃんが出来た子だからよ」

 新城が誇るような声音で意見を差し挟んだ。

「光那ちゃんならあり得る話です」

 上司が首を頷かせて同意する。

「融通効かない男ってことでもなさそうね、木田も」

 と西之森は自分の中での木田の評価を見直した。

 五人は並んで談笑しながら、行き先がそれぞれ分かれる駅前広場まで昇降口を降りた。

 彼女達を包む少しねばっこい暑さは、本格的な夏の到来が間近であることを告げている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る