第468話 魔王の啓発本


「え、大丈夫?」


「あぁ、そうだ。彼の強さはただ死にまくったことによるものだけではない。その行動を取らせた、彼の根底にある異常性が鍵なのだ」


「異常性?」


「あぁ。だってそもそも死ななくても良いゲームの世界でわざわざ自ら死ぬプレイヤーなんていないだろう? しかも、それを続けることは思ったよりも苦しいものだ。なんせ、ゲームの中では自分ではなく相手を死に至らしめたくなるからな」


「まあ、それはそうですけど……でも、それは前例が無い状態で、ですよね? 彼という、いや魔王という成功例がある以上、頑張って真似しようとする輩も大勢いるのでは?」


「そこがポイントなんだよ。彼は前例があって、それを真似しようとしていたか? 答えは否だ。だからこそ、彼はあそこまでの強さを手に入れることができたのだ。決して真似事では辿り着けないだろう」


「まあ、それはそうかもしれないですけど……で、でも、普通にあそこまでは行かなくとも、死なれまくったらステータスも上がっちゃいますよね? 儀式によっても強化されちゃったら無視できないんじゃ無いですか?」


「いや、そんなことはない。確かにステータスは上昇してしまうかもしれないが、死んだり儀式をしたりしてステータスを上げるのと、普通に狩りを行なってステータスを割り振るのとではそんなに効率は変わらない。むしろ、先人たちが積み上げてきたものがあるため、一日の長があるのは間違いなく狩りだろう」


 そう、あくまで彼の手法というのは邪道で、それをいくら真似したところで、正攻法には勝てないのだ。


「それにだな。彼はその異常性もさることながら、頭も良いのだ」


「頭が良い? そうですか? 彼のそばにいるあのメガネくんの方がよっぽど頭が良いように見えますが?」


「あぁ、確かにその言葉で一括りにするのは良くないな。彼の場合は発想が柔軟というか、筋が良いというか……まるで私たち運営の思考回路を手に取るように読み解いてしまう。そんな頭脳があるからこそ、死んでステータスを上げるに留まらず、様々な偉業、いや悪行を成し遂げているのだ」


「……別に上手いこと言って欲しいわけじゃないんですけど。でもまあ、確かに彼はいつも私たちの想定の遥か先にいますもんね。それを真似できない、と言われれば確かにそうです」


 お、珍しく彼女が食い下がらなかったな。もうちょっとあーだこーだ言われると思っていたのだが、、


「でも先輩、彼が教典を作ったってことはつまるところ、攻略本を発行している、ってことじゃないんですか?」


「っ……!?」


 教典を攻略本として発行する!? た、確かにその考えはなかった。攻略本なんて今はもう過去の遺品とかしているが、ことゲームの世界では有用だ。なんせ、閉じた情報、だからな。


 もちろん手渡しで拡散される可能性もあるが、インターネットの海にばら撒くよりかはより閉鎖性が高い。


 そして、その中に本来の教典のように自分の思想や思考法をたっぷりと詰め込み、このゲームの攻略法を載せてしまったら……


「それは確かに不味いな」


「でしょ??」


 結局はこうなってしまうのか。











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魔王の自己啓発……売れる?()


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