第467話 ヤバめの事態


「うわぁあああ! これは不味い、不味いですよ先輩!!」


 どこか懐かしい声がするな、と思ったら後輩が発狂していた。本当に久しぶりな気がするが、それと同時に嫌な記憶も沢山思い起こされてしまった。


 そもそも誰かが発狂していて良いことなんて起きているわけがない。


「先輩これ見てくださいよ!」


 そう言って画面に示されたのは、一冊の禍々しい本だった。その本のカバーは黒をベースに赤や紫で装飾が入り、圧倒的な負のオーラを放っていた。


「これはなんだ?」


「これは彼が作った宗教である、死教の教典、のようです」


「宗教? 教典? 死教?」


 この、一度に伝達される情報の量が多すぎて処理ができないという現象も久しぶりだな。って、感傷に浸っている場合じゃない。


「つ、つまり彼が神への階段を着実に登っている、ってことか?」


「あ、いえそれも確かにあるんですが、それ以上に、この本の内容がヤバいんです!」


「ヤバい?」


 彼女の語彙力がかなり低下してしまっている。人は大きな衝撃を受けると語彙力が低下してしまうらしいが、私はそれを生で体験している。というか、今までも何度もあったよな。


「はい。この本、メインテーマなんだと思います? 『死こそ救済』ですよ? やばくないですか? 自殺を容認している宗教って頭おかしくないですか?」


 確かにおかしいな。今、現存している宗教の中に自殺を是としているものは一つもないだろう。これは断言できる。何故ならば、自殺を容認してしまえば、信者が皆自殺してしまい、結局のところ宗教として存続できないからだ。


 それを、この死が許されているゲームの世界で展開するとは……賢いな。って、多分そうじゃないな。


「つまり、信徒たちもこぞって死に始める、ってことか?」


「そ・う・な・ん・で・す!!! これが何を意味するか分かってます? ジェネリック彼の量産化計画が始動しちゃってるってことなんですよ!!」


 彼女のテンションが過去最高潮だ。それもそのはず、それは私たちが彼の動向を監視している理由がまさにそこにあるからだ。それにしてもジェネリック彼、面白いな。


「彼一人ならこちら側に引き込むことでなんとかなってますけど、それが量産化されちゃったらどうなると思います? いよいよゲームが崩壊しちゃいますよ! どうするんですか先輩!!」


 彼女の目はいつになく真剣だった。そこには鬼気迫る何かがあった。しかし、


「大丈夫だ。そこまで心配するほどのことじゃない」


 私の考えは違った。









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鬼気迫る投稿()

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