第461話 死者の連行


「えぇ、はい、はいそうです。はい、ではそちらの方でよろしくお願いします」


 ツーツー


「はぁ、」


 疲れた。まさか社長にこんな事務仕事が待っているとは思わなかった。


 いやまあそりゃ大企業の社長というわけじゃないから、それと比べたらアレだが、トップというのは中々骨が折れるな。


 ゲームを作り始めた頃の、純粋な気持ちというのはどこにいってしまったのだろうか。


 もうあの時のような気力も時間も二度と手に入らないんじゃないか、そう思わずにはいられない。というか、なんであの時はあんなに精力的にしかもゲームのことばかりを考えていられたんだろうな?


 まあ、良い意味で現実を知らなかったんだろうな。ゲームを作るからには売らねばならんし、売るには色んな手続きが必要だ。


 まあ、幸いなことに私には後輩がいるから、ゲームの方は彼女に任せればなんとかなる。


 ただ、問題はその彼女が私と一緒に仕事をしたいと熱望している、ということだ。


「せーんーぱーいーー! なんでそんな死んだ馬みたいな目をしてるんですか? 馬車馬の如く働き過ぎなんじゃないですかー?」


 おいおいなんだよ死んだ馬のような目って、相場は普通魚だろ。


「そりゃ私だって生者の眼を宿していたんだが……」


 というかまだ死んだつもりはないぞ?


「……じゃあ、いきたいと言ってください」


 後輩は私に聞こえるか聞こえないかくらいの声量でボソッとそう言った。残念ながら聞こえてしまったのだが、私は聞き返さざるを得なかった。


「ん?」


「いきたいと言ってください!」


「へ?」


「いいから! だっていきたいんでしょ?」


 いやまあさっきからそうだが、死んだつもりはないんだけどな? そっちが勝手に死んでるって思ってるだけだからな?


 でも、このノリに付き合わなければ終わりそうにもない。そこは先輩としての器の広さを見せてやろうか。


「あぁ、分かったよ。いきたい」


「いきたいんですね! じゃあ早速パンケーキ屋さんに行きましょう!」


「んん??」


「え、だって今行きたいって言いましたよね?」


「そ、それは確かに言ったけども……」


 はぁ、そういうことだったのか。これはまんまとやられてしまったな。もう少し警戒しておくべきだった。最近後輩と話すことも少なくなってきて完全に油断してた。


 ❇︎


 彼女に連れてこられたのはとてもオシャレなカフェで、到底私のような者が似合う場所では無かった。


「せんぱーい、聞いてくださいよー。最近プレイヤー達が無謀にも彼のお城に攻め続けてるんですよ? 先輩の方から不毛だから止めるよう言ってあげません?」


「おいおい、そんなことをゲームマスターが言ったら終わりだろ」


「そうですかー? それより、先輩もうちょっと顔出してくれないですか? 皆んな寂しがってますよ?」


「あぁ、ただまあこっちもこっちで忙しいからな。落ち着いたらまた前のように毎日顔を出すよ」


「えー、そう言ってもう何ヶ月経ってると思ってるんですかー。もーそろそろ誰も先輩の言うことなんて信用しませんよー?」


「でもまあ、それでも待ってもらう他ないな。後半年くらいでコッチは方がつきそうだから、そっからが勝負だな」


「えー半年って新生児が産まれてから0.5歳になっちゃうじゃないですか!」


 そこからも彼女は私に戻って来るようにあの手この手を使って説き伏せようとしてきた。


 ただ、そのどれもが分かりそうで分からないような、そんな例えだっだ。


 ふと、周りを見渡した時にカフェに来ている人達が眩しく見えたのは恐らく気のせいだろう。

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