第451話 牙城


「ふぅ、よし」


 今日は二回目となる買収交渉だ。もうこちらとしては売る意思は無いし、売らない意思も固いため、今日で決着をつけたいと思っている。


 あとは、向こうをどうやって納得させるか、と言うか手を引いてもらうかだが……


「では、本日もよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「今回は単刀直入に言いましょう。私たちに株を売りませんか? 金額は直接言うといやらしいですが、営業利益の十五倍、出しましょう。いかがですか? 最近、お宅の業績、奮っていないんですよね?」


「っ……」


 クソ、初手から痛いとこを突かれたな。そうだ、うちの会社はそれこそゲームを販売当初は物凄い売り上げを叩き出し、VRという波もあってかなりの利益を叩き出していた。しかし、今現状はその波が一旦落ち着き、ジリジリと利益は下がっている状態だ。


 そもそもゲーム業界というのは何年もかけて仕込んで、それが売り上げを上げている状態の中次作の仕込みを開始するものだ。つまり、絶対に波は生まれる者だし、その合間をみれば必ず利益が低迷している瞬間というのは存在してしまう。


 そこに、十五倍という数字を持って来られれば流石に並の人間ならば揺らいでしまうだろう。


 なぜなら企業買収というのは資産の額にもよるが基本的にその年の利益の五倍から十倍の間で算出される。十倍というのもかなり高いのに、思い切って十五倍とは向こうにも相当の覚悟が伺える。なんせあり得ない数字なのだ。


 まあ、今年はそこまで利益が出ていないことを考慮しての数字だろうが、それでも馬鹿にはならない。しかもその売却した金を株主たちで分けるのだから相当な金額になる。それこそ、普通のサラリーマンからしたらあり得ない金額になるだろう。


 だが、私も友人も金じゃ無いのだ。お金の誘惑には惑わされない。


「もちろん、お金じゃ無いというのも分かります」


 相手は私が何もいう前に、心を見透かしたようにそう言った。続けて、


「しかし、お金があればできることもあります。例えばですが、今はどのくらいの予算感で開発を進めておりますか? もしそれが仮に十倍、二十倍になったらどうでしょう? 一気にやれる幅が広がってきませんか? そうです、これはお互いにとってウィンウィンな買収だと思うのです」


 これまた痛いところだな。


 確かにクリエイターとして予算はあればあるだけ嬉しい。お金の桁が一つ違うだけで無限にできることとできないことが生まれてくる。


 仮に今の予算の十倍があったとしたら、もっと面白いゲームを作れるかもしれないし、後輩はもっと力を発揮してくれるかもしれない。


 ただ、ただ、それでもダメなのだ。やはり、私たちには城が必要なのだ、いや砦というべきか。


 自分を守って上げられる唯一の拠点があのオフィスなのだ。だから絶対に譲れない。


 そもそも予算があったら、なんていうのは言い訳でしかない。本当に面白い物を作れたら自然とお金は集まってくる、そういうものだ。


「何を言っても意思は変わらないようですね。分かりました、では今回は私たちが諦めましょう。ですが、買収に応じなかったということは敵になるということです。私たちも遅ばせながら必ずVR業界に進出します。その時に嘆いても遅いですからね?」


 そう言って先方は帰って行った。どうやら、なんとか守り切ることができたようだ。


 それにしても……ん、ここって貴方たちの本社では? どこに帰ったの? 帰るのって私の方だよな?










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なんだかあっさり終わってしまったかもです。ですが、まだちゃんと続きそうな予感を残せたのでこれでよかったかなと思います。


質問です。私が何をしたら皆さんは五百円を払おうと思いますか??


とっても気になります!(´﹃`)

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