第449話 筆頭


「先輩、どうでした……?」


 私がオフィスに戻ると後輩はらしくない様子で私に話しかけてきた。やはり彼女も彼女で思うところはあったようだ。もしかして心配してくれていたのかもしれないな。


「うん、とりあえずは買収を断る姿勢を見せはした。ただ、向こうも向こうで是が非でも買収したいのか、それとも話が単に通じなかったのか、会議は平行線のまま終わった」


「えーなんですかそれは! 先輩はちゃんと言ったんですよね?」


「あぁ、もちろんだ」


「それでも伝わらなかったってことは、じゃあもう後足りないのはパッションだけじゃないですか? なんなら私もついていきましょうか?」


 うん、パッションは会議や交渉において最も対局に位置しているんじゃなかろうか。いや、まあ確かにパッションは大事だがそれを剥き出しにする必要はない。パッションは胸の中に秘めておいて、表層で常に冷静な判断を下すことが求められる。


 彼女が会議に来たら……カッとなってしまった彼女をどう宥めるかもう胃が痛くなるな。


「ありがとう。その気持ちだけで十分だ。ただ、まだ会議は続くだろうし、これから先何があるか……」


「確かにそうですね。向こうが陰湿な嫌がらせをしてくるとは思えませんが、場合によっては」


 そう、それも全然あり得るのだ。タレントや政治家などの不祥事に対して国民は敏感だ。しかし、一企業、組織となるとどうだろうか。それも企業対企業になると途端に興味の対象から外れてしまう。


 つまりは何をされても世間から叩かれることはないということだ。


 いや、そこまで言うと語弊があるかもしれないが、買収に関しての企業同士のいざこざなんて誰も興味がないし、注目を稼げないからこそニュースにもならないのだ。だからこそラインが曖昧で、何をされるか分かったもんじゃない。


「できる限りの対策をするべきだろうな。それこそどれだけ対策をしてもしすぎと言うことにはならないだろう」


「そうですね。私も私なりに色々と考えておきますね。ちなみにですけど、先輩が筆頭株主なんですよね?」


「ん、あぁそうだぞ」


「へー、なんだか面白いですね。先輩ってあくまで先輩で会社の社長って感じがしませんもんね」


「ん、それは褒め言葉として受け取っていいのか?」


「いや、誉めてないですけど。でもまあ、それなら極論先輩がその株をどんなことがあっても手放さなければこの会社は守られるわけですよね?」


「あぁ、そうだな」


「なら大丈夫ですね!」


 そう言って彼女は微笑んだ。でも、株式を持っているのは私だけじゃないから、もしかしたらそこから株を買われてしまう可能性はある。


 筆頭株主でなくても一応なんらかの口出しができたはずだ。それについてももう一度ちゃんとおさらいをして、買収されそうになっていることを報告しないとな。


 ここは私が踏ん張る時だ。









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皆さんは電子書籍と紙書籍どちら派ですか?

私は圧倒的に紙派なんですが、場所とか移動とかを考えたら電子書籍も捨て難いですよね……

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