第447話 暗曇
ふー、今日は疲れたな。こういう時こそ後輩の底なしの明るさに頼りたくなるものだな。
「おーい、彼の調子はどんな感じなんだ?」
「ん、どうしたんですかそんな遠くから。彼ですか、彼は相変わらず通常運転ですよ? 少しは奮闘してくれると思っていた領地の主さんも一瞬にしてやられちゃってましたよー。やっぱり妖力なんて関係なかったんですよ!」
「そうだな。彼は妖力なんて次元じゃない所で戦っているからな」
「えぇ、そうですね。そういえば先輩はどちらに行かれていたんですか? 午前中席を外されていましたよね?」
「あぁ、ちょっと用事があってな」
「用事って何なんですか? 新作のミーティングってわけじゃないんですよね?」
ふむ、こういう所は妙に鼻が効くのだな。まあ、最初から私に何か感じていたのかも知れない。彼女にしては珍しくちゃんとした敬語を使っていたからな。
「んー、これは別にいう必要はないと思っていたのだが……この会社の買収打診をされたんだ」
「え!? 買収打診、ですかっ!?」
おい、声がデカいぞ。まあ、今は昼休みで誰もいないからセーフだけど。
「あぁ、結構ノリに乗っていると思われたらしく、それこそかなり大きい会社から来たんだ。資金力も全然違うからそこに行けばもっとやりたいことを思うようにできると言われたんだ」
「えー! まさか、そんなことがあるんですね!」
「そうだな。私も寝耳に水でかなり驚いていた。さっきはその初めての打ち合わせだったんだ」
「なるほどですね〜……」
なんだその日本語は、って突っ込む気にもなれないな。私自身あまり意識しないようにしていたが、なんだかんだでかなりショックを受けていたようだ。
別に悲しいとかではないし、何なら評価されて嬉しいとも思っている。ただ、それ以上に衝撃的だし、どこか物寂しさがあるのだ。
「それで、先輩はどうするんですか?」
「へ?」
「いや、素直に買収されるんですか? 先輩はそれでいいんですか?」
「っ……!?」
確かに、それでは良くない。私の心もそれを物語っている。ただ、資金的にどう足掻いても買収されるのは決定事項のようなものだ。
「私たちも株式会社である以上は株主の意向には逆らえない。それに、買収されて伸び伸びやっていくっていうのも悪くないだろう? ここ最近はどうも手詰まりだったように思うし」
「本当にそれでいいんですか?」
後輩が真っ直ぐな瞳で私を見つめてきた。私は目を逸らすこともできなかった。
「先輩、まだ決まってないんですよね? むしろこれからなんですよね? じゃあ、徹底抗戦しましょうよ。やれるだけやってから諦めても遅くはないはずですよ」
「そう、だな」
熱く燃え盛る後輩とは対照的に、私の心の中には未だ暗雲が立ち込めていた。
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新章?開幕です。サイドストーリーとしてお楽しみください!
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