第432話 輪環学校
「んー……」
お昼休憩を終えオフィスに戻ると珍しく彼女が頭を抱えていた。どうやら先ほど私が提案した、彼だけには別の意味で伝わるような文言、について考えているようだ。
私としてはあくまでそれは机上の空論、と言うか詭弁で実現不可能のものだと思っていたのだが、どうやら彼女は本気で考えているみたいだ。
「先輩、ちょっと試作ができたので聞いてください!」
そうこうしている内に彼女から私に話しかけてきた。
「例えばですけど、宝の居場所を教える謎解きみたいな感じで、『大いなる罪人は毒沼を越え、溶岩飲み込み、大蜘蛛を倒し、大鳥の元へ駆けつければその罪を逃れられるだろう』みたいなのはどうですか?」
ふむ、なるほど。恐らく彼には彼の従魔を想起させ、他のプレイヤーには実際の毒沼や溶岩を連想させる、ってことだろう。だが、
「これを聞いたプレイヤーにどうしろと言うんだ? 毒沼を越えるのはまだしも、溶岩を飲み込むのは不可能じゃないか? それに結局罪から逃れてしまっては意味ないじゃないか」
「ムゥーこれでも一生懸命考えたんですよ? そんなに言うんだったら先輩もちゃんと考えてくださいよ!」
まあそうなるだろうな。代替案無き批判はどの場においても嫌悪されるものだ。
「そうだな。もういっそのことただの謎解きにすれば良いんじゃないか?」
「謎解き?」
私も後輩の真似をして口から出まかせを言ってみる。ちなみにこれは彼女の言葉から思いついたものだ。
「そうだ。シンプルに難しい謎解きを考えるのだ。そうすれば彼には頭脳は一つ、いや正確には二つか? とにかくそれだけの頭しか使うことはできない。だが、プレイヤーはどうだろうか? 彼に比べれば無数とも言えるだけの頭脳を使うことができる」
「ふむふむ、絶対的な数でゴリ押しするってわけですね。でも彼には最近魔物プレイヤーと言う大きな味方ができましたよ? それはどうするんですか?」
くっ、やはり一筋縄ではいかないか。
「それについては考える必要はないだろう。魔物プレイヤーだからと言って皆が従順なわけではない。彼の圧倒的強さに従っているだけだろう。そんな中、七大罪スキルという人参がぶら下げられたらどうだろうか? 自分が魔王になれるかもしれないという気を起こす奴が何人もいるだろう。それだけで魔物のプレイヤーは当てにならない」
「なるほどー確かにそれはそうですね。実質彼とその部下のメガネくんしか使い物にならないってわけですね。でも言っても彼らも賢いんじゃないですか?」
「そうだな。確かに彼と部下のプレイヤーは賢いのだろう。だが二つの視点しかない、というのは弱点になりうるはずだ。単純にそこをつけばいけるだろう」
「良いですね! あ、でもプレイヤーって掲示板で議論しますよね? それを二人に見られたらおしまいなんじゃないですか?」
「それも大丈夫だろう。掲示板に書いている時点でもう既に出遅れているし、そもそもコースアウトしてしまっている。本気で獲りにいくやつは自分で考えるだろうし、誰もその情報を他人と共有しようとは思わないだろう」
「確かにそうですね! じゃあ謎解きを考えますか!」
よし、これでなんとか難を免れたな。しかも、再び彼女に仕事を請け負ってもらえた。完璧な立ち回りと言えるだろう。
「あ、今度は先輩もしっかり考えてくださいね?」
「あ、はい……」
そうは問屋が降ろしてくれないらしい。
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次回予告しようと思ったけどフラグにしかならなさそうなのでやめました。
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