第378話 初心者狩り
「ん、ちょっと待って下さい。このプレイヤーどこかおかしくないですか?」
初心者のフリをしている彼をみていると唐突に彼女がそんなことを言い始めた。
「え、どこかおかしいのか?」
「ほら、みて分かりませんか? モンスターとの立ち回りからして絶対に初心者じゃないですよ、これは! それに、スライムを一発で倒したのはまだ分かりますが、ゴブリンやコボルトも一発で倒せちゃってます。これはどこからどう見てもおかしいですよ!」
うむ、確かにそう言われてみればそうかとも見えるな。だが、
「ただ単にここでレベルアップをずっとしている人なんじゃないか? 堅実なプレイをする人だったらあり得なくもないだろう。それこそデスゲーム縛りプレイみたいなことをしてて、一回も死ねないようにしてたらそれくらいの安全マージンを欲してもなんら不思議はない」
「えー、いますかそんなマゾ縛りをする人ー? いても先輩くらいのものでしょう? わざわざする理由がないですよ。このゲームは簡単にクリアできるどころかクリアができないんですから、縛るくらいならさっさと強くなれって思いません?」
「いやまあそれもそうなんだがな。ほら、この世には一定数いるじゃないか、病に冒され続けている人々が。彼らならそんな縛りをしてもおかしくないんじゃないじか?」
私はこの時、珍しく反駁してしまった。何故かは分からないが、つい口からこぼれ落ちてしまった。その結果は火を見るより明らかだった。
「あ、ってことは先輩も未だに冒され続けてるんですね! それならそうと言って下さいよー、私も知らずに対応してたじゃないですかー。処方箋はないみたいですから頑張って治療して下さいねー」
彼女に反論したこと、そして弱みを見せたこと、この二つがあるのに彼女が攻撃しないはずがない。彼女ならどちらか片方がなくても容赦無く言論のランチャーをぶっ放してくるからな。
いつもなら堪えていたのにどうしてだろうか。言葉は取り消せないから厄介だよな。全く。
「それに見て下さいよほら、男の子か女の子か分からない見た目をしていますよ? こんなちっちゃい子が厨二病だと思いますか?」
いやいや見た目は関係ないだろう。それに、この世界では容姿はいとも簡単に変えることができる。もはや顔だけで人を判断することは不可能だと思うのだが。
という反論を頭の中で構築したものの、今回はグッと堪えることができた。流石に火に油を、いや燃料を注ぐ真似はしたくないからな。
「でも、その人はなんでそんなことをする必要があるんだ?」
「そりゃ初心者狩りに決まってるでしょ! ってかそれ以外考えられないと思いますよ?」
ん、じゃあ彼は一体何の為に初心者のフリをしているんだ? 彼は別に初心者じゃなくても狩れるだろう。
「あ、でもなんで彼は気がつかないんでしょうか。普通、こんな怪しい初心者がいたら絶対に気付きますよね? 自分も初心者のフリをしてるから気づかないフリをしているんでしょうか? でも、そんなことするくらいならさっさと離れた方が良くないですか?」
確かに最もな疑問だな。だが、それには私の方が良い答えを持っているようだ。
「恐らく彼は初心者が何か知らないんじゃないか? 彼はそもそも、ゲームを始めてからマトモなプレイをしていない。そして普通じゃない強さを手に入れている。だから自分が初心者の頃と比較することすらできず、こんなものか、と受け入れているんじゃないだろうか」
「なるほど、そういうわけですか。あ、二人が別れましたよ? 初心者狩りじゃなかったんですかね?」
くっ、私の渾身の考察が見事に躱された。こうなったら……
「え、初心者狩りじゃなかったのか??」
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