第377話 平穏な魔王
「あれ? 彼は一体何をしているのでしょうか? 新しい装備、じゃなくて初期装備着用しています。な、なぜそんなことを?」
ん、初期装備を着ているだって? それはどういうことだ? なぜそんなことをする必要があるんだ?
「あ、もしかして初期装備の無限耐久値を生かしてどこかに攻略に行こうとしているんじゃないか? それこそマグマの中とか、巨大モンスターの胃の中とか」
「いやーそんなことの為にわざわざ着替えますかね? それなら普通に今までの装備でなんら問題はないように思えますけどね。それよりはもっとこう、初期装備でなきゃいけない理由がありそうなんですが……」
そんなことって、いやまあ少し巫山戯た部分もあったが少しくらいは一考して欲しかったし、最悪突っ込んで欲しかっ
「あ、どうやら彼始まりの街に行くみたいですよ?」
「なにっ!?」
つまりは初期装備を着用したのは変装のためだったということか? でも、確かに彼の顔を見たことある人はそんなにいないだろうし、覚えている人、にまで絞ったら殆どいないだろう。
このゲームの世界においては皆が顔をいじれるからこそ、顔の重要性は低くなり、同時に強さを象徴する武器や防具に目が行きがちで、人を判断する時も装備で判断するというのが殆どだろう。
親しくなれば話は変わってくるだろうが、親しくなるまでの間でこれは必ず起きることだ。そして彼には親しいプレイヤーがいない。つまりは完璧な変装だということだ。
初期装備には誰も目を向けないし、何より始まりの街には初期装備のプレイヤーがたくさんいる。木を隠すなら森の中、という言葉がこれほどピッタリな場面もなかなかないだろう。
「あ! 彼がプレイヤーと接触しましたよ! 相手は同じ初心者プレイヤーのようです!」
何? 彼が接触しただと? バレないように変装したのでは無かったのか? 自ら接触してはリスクが増えるだけではないか。一体何を考えているのだ?
はっ、もしかして変装しているのは身バレを防ぐためではなく、相手を油断させるためだったのか? もしそうなら自ら接触したのも頷ける。
でもそれはそれでなぜ接触する必要があるのか、という疑問が発生する。プレイヤーを囲おうとしているのか? メガネプレイヤーを仲間にしたことで吹っ切れて積極的にプレイヤーを味方につけようとしているのだろうか。
始まりの街にいる初心者プレイヤーならばこれからいろんな可能性が待っている。それを利用し、従魔を育てるようにプレイヤーを育成し始めたら? そしてそれをマニュアル化し、何人も、何十人も作り上げたら?
最凶最悪魔王クランの完成だ。
「……まさかそんなに恐ろしいことを考えているとは」
「あ、彼から接触したと思っていたのですが、どうやらお相手さんから話しかけられたみたいですね」
「へ?」
「今では仲良く二人でスライムを狩していますよ。彼もこういった平凡な日常を味わいたかったのかも知れませんね。毎日が魔王というのもそれはそれで気苦労が多いのでしょうね」
え、一気に私の推測、考察が外れたのだが? まあそりゃ前提条件が間違っていた以上正解のしようもないのだが。いや、それでもほらもうちょっと早くいって欲しかったな、うん。私の一人考察はなんだったのだろう。
「ん、ちょっと待って下さい。このプレイヤーどこかおかしくないですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます