第375話 一瞬の冷や汗


「あ、え、ちょっ、はぁ!?!?」


 その日の彼女の悲鳴とも言えるような素っ頓狂な声は、今までで一番大きかった。私ほど彼女と一緒に仕事していると、その日の声量でどのくらいの事件が起きたのかが分かるのだが、今回は未曾有の大災害が発生したと思われる。


 というか、過去一の驚き具合じゃなかろうか。ここまでくるともう何があったのか、聞きたくない程だ。


「どうしたんだ?」


「は、はい……ちょっとこれはヤバいことが起きましてですね。そ、そのー、どうやら彼の正体を知るプレイヤーが現れたようです」


「…………は!?」


 私もその言葉を聞いて咀嚼し理解するまでに数秒を要してしまった。それくらいこのことは大事だし、彼女があれほどの反応をしたのも頷ける。


「そ、それは本当なのか? 本当に彼の正体が、魔王の正体がプレイヤーだということがバレたのか!?」


「はい。どうやらまだ大々的にバレているわけではないのですが、ある一人のプレイヤーには完全にバレてしまっているようです」


 ま、まさか。まさかそんなことがありうるのか? 彼と魔王を繋ぐ接点というのはほとんどなかったはずだ。それなのに何故? 彼は私たちが四六時中監視していたし、その中で危うい所はなかったように思える。


 所々こちら側が介入してバレないように気配りをするほど厳重に注意していたのにも関わらず、バレたというのか?


「ど、どうしてバレることになったんだ?」


「そ、それがですね、なんと彼の声だけで判別したようなのです……」


「こ、声!?」


 確かに声まで意識を向けてはいなかったかもしれない。彼の声を知っていて尚且つ魔王の声を聞いたときにビビッとくる、可能性はあるかもしれない。


 だが、それは彼とよく連んでいるプレイヤーがいた場合だろう? 彼はプレイ開始から今までずっとソロだったんだぞ? 声を聞くタイミングなどどこにあった?


 そりゃ彼も二度ほどイベントに参加したことはあっただろうが、別に大衆の前で演説したわけではない。演説をしたのは魔王の姿の時だけだ。ならばどこで……?


「は? ちょっとこれを見てください。彼、なんとこのプレイヤーに一度出会っています! どうやらこのプレイヤーは情報屋で、インタビューをしたことがあるようです。彼が第三回月開催イベントで優勝した時から大ファンだったみたいです。それで鮮明に彼の声も記憶していて、魔王の声を聞いたときに同一人物だと確信したようです」


「な、」


 そんなことが現実に起こりうるとは……一体どうなっているんだ? でも確かに彼のファンというのならば仕方はないか。彼がそのイベントで優勝した時は然程話題になっていないからと、特に注意していなかった我々の落ち度だな。


 確かに普通ならば彼の強さは注目に値するものだ。むしろ今までよく見つからなかったものだと讃えたいくらいだ。


 問題は、そのプレイヤーが彼の正体を明かすかどうか、そして彼が自分は運営の差金であることを告白するかどうかだが……


「あ、彼魔王のロールプレイしていますよ? って、え!? この人、魔王軍に入ろうとしていますよ?」


 ま、まじか。







——————————————————

この作品で彼と呼ばれるのは基本的に主人公だけです。

その他のプレイヤーには彼という代名詞は使わないようにしているので、その点で判別していただければ幸いです。

また、分かりにくい箇所等ございましたらいつでもお知らせください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る