第374話 恐ろしや


「あれ、魔王城にプレイヤーが攻め込んできていますよ?」


 それは天魔大戦も無事終わり、宴会も終わり、魔王軍序列決定戦も終わり、日も変わって穏やかな時間が流れていた時のことだった。彼も自分のお城で優雅に暮らしており、珍しく平和な時間が流れているなーなんて思っていた矢先の出来事だった。


 まさか、このタイミングで魔王城に攻め入ろうなんて不届きものがいようとはな。彼に勝てるわけがないだろう。さっさと諦めて帰れ!


 なんて口が裂けても言えるはずもなく私はただ見守ることしかできなかった。


「お、第一層をクリアしたようです! タツノオトシゴ進化バージョンが不在だったせいか、なんとか突破できたようですね。それでもパーティは半壊していますから彼のところに辿り着くのはまず不可能でしょうね」


 いや、それはそうだろう。もし今の段階で彼の元にまで辿り着けるプレイヤーがいるのならば是非教えてもらいたいくらいだ。


 だって、彼に会うまでには彼の精鋭従魔たちを薙ぎ倒さなければいけないのだろう? 私がチートを使っても不可能な気がするんだが……


 いや、流石に本気のチートを使えばそりゃいけるだろうけど。まあとにかくそのくらい強いのだ彼は。つまり、今回攻略しようとしているパーティも彼を倒すのは不可能で、どこまでいけるか、そしてどれほどの情報を持って帰れるか、が大事になってくるだろう。


 

「あ、」


 突如、彼女が素っ頓狂な声を上げた。その時点で何が起こったのか、私には手にとるように分かった。おそらく、彼の従魔が攻略パーティに何かしたのだろう。


「どうしたんだ?」


「あ、いや別にたいしたことじゃないんですが、第二層で彼の従魔であるゾンビスライムがパーティを全滅させちゃったのです」


「ぜ、全滅?」


「はい。まあゾンビスライムって名前は弱そうですけど、実際はメチャクチャ強いですから仕方がないですよね。スライムの物理耐性に加えてゾンビの不死身力が掛け合わさったとなれば怖いものですよ、ええ」


 いやいや、不死身力ってなんだ? そんな言葉この世に存在するのか?


 でもまあそれもそうだな。お互いの弱点をカバーしあってなんだかんだ最強モンスターになってしまっている。一見乏しそうな攻撃手段も、スライムの捕食能力と、ゾンビの腐敗能力で余裕で致命傷たりえてしまうからな。


 んー、こんな生物は見たことないんだが、彼の発想力は自由すぎやしないか?


 そもそもなぜゾンビとスライムを配合させようと思ったのだろうか。もっと強そうな、ドラゴンとゴーレムを組み合わせてみるとかならまだしも最弱と最弱を掛け合わせようとするそのチャレンジ精神が実を結んだのだろうな。


「そういえばその攻略パーティはどんなメンバーだったんだ?」


「えーっと、頂上決定戦の出場メンバーを中心にして作られたグループのようです」


「は?」


 頂上決定戦の出場メンバーを中心にして作られたグループ? ってことは、彼の従魔はそれだけ強いってことか? いやいやというかそもそも彼とその他のプレイヤーにはどれだけ差があるというんだ?


 恐ろしい……寝よ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る