第363話 抜けた奴


 至急、会議を開いた結果、天使側についたプレイヤー達に最大限の恩恵を与える、ということで話がまとまった。


 なんせ、彼はプレイヤーでもあるからあまり大々的に手を加えることができない。いや、本当は加えてもいいのだろうが、私たち運営の矜持、プライドがそれを邪魔しているのだ。


 だからこそ、魔王側に付けなかったプレイヤー達に補填をすることで相対的に釣り合う、むしろプレイヤー達にプラスが出る設計にしよう、ということだ。


 例えばだがイベント中の経験値増加であったり、デスペナルティであったりは当然のこと、それらに加えて討伐数に応じて報酬も用意している。


 実際のところこれらがどれほど上手く機能するかは正直分からない。ただまあないよりかは幾分もマシだろうという結論に至ったのだ。彼が天使の軍勢に対してどんな立ち回りをするのか、そしてどれだけ自信があるのか分からない以上、こういう消極的な手にならざるを得なかったのだ。


「はぁ、にしても本当にこんなので大丈夫ですかねー? 批判をされないように、ボコボコにやられてもプラスが出るようにすれば、元々そういうイベントだった、という言い訳ができるのはわかりますが、我々運営が希望を持たないでどうするんですかー。それこそ天使強さを大幅に上げる、なんてこともできたでしょうにー」


「それなら聞くが、どれくらい天使を強くすれば彼と釣り合うと思う? そして仮に釣り合う地点が見つかったとして、それを見たプレイヤー達はどう思うだろうか。お前らそんな戦い他所でやってくれ、というのが関の山だろう。つまりはこれが最善手ということだ」


「まあ、そうですけどぉ〜」


 彼女自身も分かっているのだろう。分かった上で自分がワクワクしないからという理由で不満をぶつけているからタチが悪い。


 そして彼女の言い分にも正当性が存在するのだ。それが厄介でもあるのだが、こういう仕事をする以上、人をワクワクさせねばならない。だからこそ彼女の直感的感覚も非常に重要なものなのだ。彼女の場合は独楽的な場合もなくはないのだろうが。


 いや、むしろそっちの方が多いと言えるかもしれない。まあ、でもそれが結果的に多くの人を楽しませているから、何も言えないのだが。


「あ! 第一層を抜けた人がいましたよ!」


「な、それは本当か!?」


 ただでさえ彼は援軍が必要ないと思っているのに、そこに彼のレベルに達するプレイヤーが存在するとはな。これで更に彼の軍が強化された訳だが……


「それでどんなプレイヤーがクリアしたんだ?」


「そ、それが……」


 ん、非常に言いにくそうだな。それ程までに強いプレイヤーというのか? だが、流石にまだ隠し職業のプレイヤーは育っていないだろう? そんなに強いプレイヤーが果たしているのか?


「えーっと、全部で三人彼の試験をクリアしたのが、そのメンバーというのが少し特殊でして、三人の内二人が魚人で、もう一人が今にも死にそうなただのプレイヤーなのです」


「ん、、んんっ?」


 つまりは彼の増援の三分の二が魚人で、もう一人がなんとか第一層をクリアしたプレイヤーってことか?


「ってことは、第一層を実力でクリアした猛者じゃなくて、水中エリアだからクリアできた魚人二人と、なんとか激流を潜り抜けたプレイヤーってことか?」


「は、はい。しかも、映像を見直すと魚人じゃない彼は殆ど運でクリアしたようなものなんです。これは……どうなんでしょう?」


 ど、どうなるんだろうな? 流石にこれは彼でも想定外じゃなかったのか? なんせ、魚人は地上戦では役に立たないし、もう一人は単純に戦力として申し分しかない。


 まあ、援軍など必要ないと思っていたのだろうが、いざ援軍が来たとなると期待したことだろう。


 援軍無しか、強い援軍が手に入ると踏んでいた彼にとって、この状況は第三の選択肢のはずだ。さて、ここからどうでるんだ?


「あ、彼が彼らに対して、何か発言しましたよ? 何々、『我が責任を持ってしっかり貴様らを強くしてやろう』? あ、これは少しまずいかもですね」


 あ、不味い?

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