第356話 有能すぎる後輩と新たな風


「先輩、ちょっとお時間いいですか?」


 お昼休憩に入ってちょっと一服している私に後輩がそう話しかけてきた。


 私の昼休憩は特に何の変哲もなくコーヒーをちょびちょび飲んでいるだけなのだが、こうして後輩から話しかけられるのは珍しい。


 後輩は仕事では普通に喋るのだが、休憩時間は自分の時間を持ちたいのか余りはなしかけてこないのだ。


 そんな彼女が話しかけてくると言うことは相当な内容だということだ。心して聞いた方がいいだろう。


 だが、言葉遣いが丁寧なのがすこし引っかかる、


「ん、どうしたんだ?」


「いや、ちょっと提案というかお尋ねしたいことがありまして……」


「提案、尋ねたいこと? なんだ?」


「いえ、ちょっとしたことなんですが、私たちでプレイヤーを育成してみては、と思ったんです」


「プレイヤーの育成?」


 一体、彼女は何を言ってるんだ? プレイヤーを育成なんて我々が一番やってはいけない行為なのではないか?


「はい。まあ、何故私がこれを先輩に提案したかと言いますと、勿論、彼の存在が関わることになります」


「ふむ」


 とりあえず話を聞くだけ聞いてみることにしよう。彼女も存外真剣な様子だしな。自分の常識にないからと言って無碍にするのは避けるべきだからな。


「ここで質問しても良いですか? どのタイミングで来るかは分かりませんが、彼をエンドコンテンツとして据える以上、彼対全プレイヤー、という状況が生まれることは間違い無いですよね? では、その時にプレイヤー側が勝つ確率はどの程度あるでしょうか?」


 ふむ、これは確かに重要な問題であるな。真剣に考えるとするならば……


「0%未満、だろうな」


「プッ、ゼロパーセント未満ってただのマイナスじゃ無いですかー! まあ、つまりはそういうことです。いずれ来るその時において、プレイヤーが勝つ可能性がないんですよ! それって、いいんでしょうか? もちろん、私たちが手を加えないことが正義という考え方は身に沁みるように分かります」


 彼女は一呼吸して続ける。


「ですが、勝てる可能性が無い戦いをプレイヤー達に強いるのは、当たりのないクジを引かせるテキ屋となんら変わりはないのではないでしょうか? ですので、私たちにはこの現状をどうにかする義務、責任があると思います!」


「ほ、ほう……それで、その方法としてプレイヤーの育成を行いたい、そう言っているのか?」


「はい、そういうことですね。具体的な方法についてはこれから詰めていこうと思いますが、私が現段階で考えていることを話しますと、こちら側から無作為に選ぶというのも悪くないように思えますが、それではどうしても不公平感が出てしまいます。そこで強力な職業に転職できるクエストを各地に配置することによって、それに遭遇し、クリアすることのできたラッキーピーポーにその役目を与えたいと考えております」


 いやいや、無茶苦茶詰められてるじゃねーかよ。


 まあ、上司として部下がここまで真剣に考えているのだ、好きにやらせてみるのもアリだろう。だが……


「分かった。だが、今回の件は細心の注意が必要となるだろう、また、もしもの時にちゃんと私が責任を取れるようにしておきたい。その為に逐一報告すること忘れないでくれ」


「せ、先輩……! 了解です! では早速シナリオ作りに取り掛かりますね!」


 そう言って彼女はシナリオ班の元へと向かった。


 これは、なんだが面白いことになりそうだ。この世界に新たな風が吹くかもしれないな。






——————————————————

上司、部下の関係であればとても良い働きをする二人です。


二人でご飯を食べるときはまた別ですが……


さて、マンネリしそうだったので運営編に新たな展開を持ってきてみました!

本編には特に影響はないと思いますが、後々関わってくるかもですね!

運営の目が主人公以外に向けられると思います!


これからも引き続き応援してくださると嬉しいです!(≧▽≦)

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