第346話 解への接近方法


「あーあー、彼、相当死んじゃってますよこれ。どうするんですかこのステータスは異常すぎますよ!」


 私たちが食事処から帰ってくると、彼女は開口一番そう言った。


 因みにだが、私たちは鯖定食屋に行っていた。彼女にしては珍しく庶民的でリーズナブルなお店にしてくれたため、私の財布へのダメージは相当抑えられた。しかし、まあ二人分を支払っているため、一定量のダメージはあるのだが。


「だってほら見てくださいよ。私たちがご飯に行ってる間ずーっと死に続けていたんですよ? その結果がこのステータスの上昇値がとうとう二百を上回ると言う、前代未聞のバグ級の出来事が発生しちゃってるんです!」


 お、おう、そうか。凄い勢いだな。押し寄せる大波のようだったぞ? ……流石に違うか。


 ちょっとおじさんは飯の後で血糖値が上がって眠たいんだよな。食後はどうも頭が働かない。まあ、かと言ってこの眠気に従って寝てしまうとそれはそれで家畜への黄金ルート一直線だからな、全く歳というものは辛いな。


「にしても凄いスキル量だな」


 彼女に見せられた彼のステータス欄を見て、異常なステータス上昇もそうなんだが、常人じゃ考えられないほどのスキルを保有しているのも嫌でも目に付く。もちろん、称号に関しても同じだな。あまりにも異様な光景すぎるのだ。


「そりゃそうですよー。ステータスと同様、彼の強さを支える三本柱の一つですからね! それに、その中でも彼のスキルは特に重要と言ってもいいくらいなんですからね! まあ、とは言ってもこれは溜め込みすぎですけどね」


 彼の強さを支える三本柱とはステータス、スキル、称号のことだろう。普通であればプレイヤースキルというのは絶対に入ってくるのだろうが、これは彼らしさがよく出ている証拠だろう。


「ん、今思ったんだかレベルは思ったほど高くはないんだな。てっきり余裕でレベルキャップにまで到達しているものだと思っていたんだが……」


「レベルですか? そりゃそうですよむしろここまで上げているのが凄い程ですよ?」


「え、そうなのか?」


「はい。だって、先程も言った彼の強さの三本柱にレベルは入っていません。本来ならSPを使ってステータスを上げますが、彼は別の手段を使いますし、SPはSPでその全てを修羅の道に注ぎ込んでいますからねー。上げる意味が無いんですよ」


 た、確かにそうだな。彼は死だけでなくレベルの呪縛からも解き放たれてしまっているのか。


 ということはやはり死は私たちに自由を与えてくれるのだろうか?


 だが、それには多大なる苦痛を伴う。つまり、死ぬには途轍もない覚悟、もしくは絶望が必要に成るはずだ。


 彼にはそのどちらがあったのだろうか? 今となっては死ぬ事が日常になっているのだろうが、最初はそうじゃ無かったはずだ。なんせ、彼もその時はただの人間なのだったのだから。


 彼が人間だった頃、つまりゲームを始める前の彼について知ることができれば、彼について、彼の強さについて何か分かるのかもしれない。


 まあ、我々にはその情報を手に入れる手立てが一切ないのだが。


 そんな話を後輩にすると、彼女は、


「え、じゃあ本人に直接聞けばいいじゃないですか!」


 ……え?

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