第345話 先輩の野望
「せーんぱいっ! 先輩って好きな食べ物はありますか?」
「ん、あるぞ?」
「いやいや、ん、あるぞ? じゃなくてそれが何かを聞いてるんですよ!」
「あぁ、そういうことか。私は好き嫌いはそんなに無い方なんだが、強いて言えば魚介類が好きだな」
「ふむふむ、魚介類ですか。その中でも特に何が好きなんですか?」
「そうだなー鯖とか結構すきだな。他にも鯵とか秋刀魚とかか? まあ美味しければなんでも好きだな。鮭もかなり好きだし」
「へーそれでどんな食べ方が好きなんですか?」
「んー、まあなんでも好きだが鯖は味噌煮が好きだろうか? 鯵は刺身で秋刀魚は蒲焼きなんてのもありだな。勿論、どれも塩焼きでも好きだぞ?」
「はぁ、そうですか。もう好きな食べ物を聞くのがなんでこんなに大変なんですか!? もっと自分のことくらいズバズバと答えられるようになって下さいよ! 自分のことを知るってとても大切なことなんですからね!?」
自分のことを知る、か。確かに自分のことは知っているようで案外しらないことって多いのかもしれないな。
私も後輩に聞かれるまでは自分の好きな食べ物なんて考えもしなかったな。漠然と美味しければ何でも良いって思ってしまうんだよな。
子供の頃は確かに好きな食べ物、が存在したと思うんだが、いつの間に無くなってしまったのだろうか。
いや、無くなったんじゃなく意識しなくなったのか?
じゃあそもそもなんで子供の頃は好きな食べ物を意識していたのだろうか? 聞かれるタイミングが多かったら?
確かにそれもあるかもしれないが、好きなもの食べられるタイミングが少なかった、限られていたからかもしれない。
そもそも子供は自分の食卓の上を自由には決められない。だからこそ、食べたい物に異様にフォーカスしていたのかもしれない。
まあ、当時は話すことがそれくらいしか無かった、とかもあるかもしれないが、そんなに話題に困窮していたとは思いたくはない。
そもそも私の好きなものとは何なのだろうか。間違いなくゲームは好きだしアニメ、漫画は好きだ。
その上で、自分が自信を持ってこれが好き、というものはあるのだろうか?
嫌いなものじゃなくて好きな物で自分を語りたいと人は言うが果たして皆ちゃんと好きなものを装備しているのだろうか?
自分にとって大切なもの、好きなものを探す旅に出てもいいかもしれない。この命題はそれをするに値するだけのことはある、と思う。
仕事も部下に任せればなんとかなるだろうし、私も少しは仕事の時間を減らして自分の時間を作ることに注力してみよう。
後輩は……まあ、誰かがなんとかするだろう。
そんな訳で今日はコッソリと家に帰らせてもら
「せんぱーーい! 何してるんですかもーう! ほら行きますよ!」
「ん、行くってどこにだ?」
「え、決まってるじゃ無いですか、美味しい鯖が食べられるお店にですよ! 先輩はどうせ良い店知ってるんでしょ?」
「えぇ……」
私の野望は開始二歩で頓挫してしまった。
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