第342話 彼の濁流


 今、絶賛彼と戦っているクモの魔物——とは言っても人型ではあるものの——が素晴らしい動きを見せた。


 初手から彼を揺さぶって、姿を隠し、更には彼に偽物の反応を掴ませるという大技を繰り出してきた。


「こ、これは粗い反応の中にわざとそれっぽいほんの違和感だけを残し、そこに隠れていると思わせて自分はそれよりも少し大きな反応でやり過ごしたということか!」


「せ、先輩。落ち着いてください、ちょっと何言ってるか分かりませんよ?」


「そ、そうだな」


 一旦落ち着こう。これはなかなか凄いものを見たぞ。かなり複雑なことをしているようだがちゃんと理解すれば意外とシンプルだ。分かりやすく説明するとすれば、まず、自分が姿を隠した時に、反応を二つ用意する、分かりやすいのと分かりにくいのだな。


 まず大きくて分かりやすい反応をばら撒く、するとそれに紛れて自分自身が小さくて分かりにくい反応になれば非常に見つかりにくくなる。並の相手ならこの時点で勝っていることだろう。


 だが、相手は彼、自称とはいえ魔王だ。ちゃんと小さい反応までたどり着く。そこでクモちゃんが取った対応策は分かりにくい反応と分かりやすい反応の間の存在感を纏う、ということだ。


 大きな反応の中にいかにも小さくて隠れているよな反応があれば誰だってそれが本命だと思ってしまうだろう? それこそ無意識に断定してしまうほどには。いくら魔王とは言え彼も人間、そこにはひっかかってしまった。


 そして逆にその間の反応をしていた自分自身は大きくて分かりやすい反応に紛れて見つからない、という算段なわけだ。相手が彼だからこそ取れる方法だが、二段階ひっかけを咄嗟に構成するのはかなりのやり手だ。もしかしたら参謀向きなのかもしれない。


「おっと、ここでクモちゃんが反撃に出ます! 一瞬の隙を突いた攻撃だぁあ! これは流石の彼と言えども万事休すか!?」


 流石にこれは厳しい、そう思うと同時に、どこか彼の負けを信じきれない自分がいた。そして、もう一人の自分の予測した未来の方が現実となった。


「あえっ! ちょ、彼、麻痺の魔眼を使ってますよ? ちょっとこれはズルくないですか??」


 いや別にズルくはないだろう。彼が不正をしたわけではなく、普通に使える技を使っただけだからな。逆に言えば彼にこれを使わせたクモちゃんが凄いということだろう。


 でも、どこか彼が負けなくてホッとしている私がいる。彼はやはり最強だからな。彼の従魔であっても彼が負ける所は見たくない。


 まあ、彼が本気を出したら負ける可能性は万に一つもないんだろうな。


「いやークモちゃんもかなり惜しかったですねー! 彼が麻痺の魔眼を使って無かったら攻撃は当たってたでしょうに」


 まあ、仮に攻撃が当たっていたとしてもそれがそのまま彼の敗北じゃないのがまた彼の強い所であり、恐ろしい部分だよな。


 攻撃を当たるまでに途方もない壁が立ちはだかっており、そこから彼を倒し切るまでにはより大きくて分厚い壁が待っているのだ。


 彼を攻略するには一体、どれだけのプレイヤーを用意すればいいのだろう。


 今のプレイヤーたちではどれだけかき集めた所で無駄だと思ってしまうのは私だけだろうか。


 なんとか他のプレイヤーたちにも頑張って欲しいものだ。そうだ彼女に聞いてみよう。


「なぁ、彼以外で目ぼしいプレイヤーはいないのか?」


「そうですねぇ〜。彼の光が強すぎてどう頑張っても他のプレイヤーが霞んじゃうんですよねー。まあ、いたとしても小粒程度、と言ったところですかねー」


「そうか……」


 今度はプレイヤー達を強化する方法を考えないといけないかもしれないな。このままでは彼という大きすぎる波に全プレイヤーが呑まれてしまう。







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今日は投稿できたぜやったね!!


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