第316話 試金石
「で、次が八層目、という訳ですか……」
第一層から怒涛の勢いでここまで確認してきたのだが、この層に関して彼女に一つ断りを入れなければならない。別に言わなければ言わなかったで特に何か問題が起こるものではない、と思うが、一応言っておくべきなのだろうな。
「次の層に関してなんだが、実は、彼から依頼があって、我々、運営が作ることになったんだ」
そう、この八層は我々に完全委託され、直接内装を決定したのだ。そしてこれを聞いて彼女は恐らく……
「え、え!? 本当ですか? って、もう完成ちゃった感じですか? もーう、なんで私を呼んでくれなかったんですか? こういうの私が好きっていうの知ってるでしょー!」
うん、知ってる。知ってるけど、それ以上に私もノリノリで参加してしまったのだ。そんな私を周りのスタッフが止めてくれる訳もなく、気づいたら私が完成させてしまったのだ。
そういった内容の説明を彼女に何重にもオブラートに包んで説明すると、
「はぁ、そういうことですか。先輩がハッスルしちゃったってことですね」
む、そう言われるとそれはそれで癪なのだが、まあそういうことになってしまうな。
「でもまあたまには先輩もハメを外したい時くらいあるでしょうから、全然大丈夫ですよ! その代わりと言っては何ですが、また今度、ご飯食べにでもいきましょうね!」
うん、これも知ってた。どうせこれをネタに飯を強請られることくらいは知ってた。でもやらずにはいられなかった。いや、どちらかというと、暴走した私自身を止める事ができなかったというべきだろう。まあ、そのくらいの代償で済むならばよしとしよう。
それよりも、彼女のハメを外すや、ハッスルという表現の方が気に食わないな。私は運営として当然のことをしたまでなのに、何かやってはいけないことをしたかの様に言われるのは心外極まりない。
「で、どのような層になったんですか?」
「それは実際に見てもらったほうがいいだろうな」
「ん、それは……って、え、これ先輩が一人で作ったんですか?」
「いや、何人に話は聞いたな、でも大体一人で設計したな」
ん、彼女のお気に召さなかったのだろうか。思ってた反応とは違うな。良い悪いにしてももっと感情が高まると思っていたのだが……
「な、何ですかこれは! とっても面白いじゃないですか! そして、ちゃんと強い! 良い仕事をしたんじゃないですか先輩! これなら彼にも舐められることはないですね!」
「そ、それは良かった」
舐められない、って別にそんな心算で設計したわけではないのだがな。まあ、彼女にも気に入ってもら得てよかった。実の所少し心配ではあったのだ。
「恐らく、彼は私たちの力を試したんでしょうね。どのくらいのことができるのかを見定めたかったのでしょう。だからこそ、この一癖も二癖もある従魔が守る層を任されたのでしょう。でも、先輩はそれに完璧に答えました。ですので彼からの評価も上がったことでしょう! 先輩、たまにはやりますねぇ」
これは褒められているのだろうか。いや、褒めてくれているのだろうが、何だか素直に受け取れない自分がいる。まあ、彼女が私を持ち上げて気持ちよく奢らせようとしている可能性が一番大きいと思ってしまうのは私のせいだけではないだろう。
まあ、悪い気はしないがな。私としても彼の試験をクリアできたのならば喜ばしいことであるのは間違いないのだから。
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試金石ってなんかかっこよくないですか!?
……現場からは以上です。皆さんのカッコ良いと思う言葉を教えてくださいな。
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