第315話 彼の妄想


「はぁ、マグマの層の次は森ですかー。今までの層に比べれば比較的攻略しやすそうな印象を受けますね」


 彼女が何かを察したのか、ため息をつきながら投げやりな感じでそういった。


「でも、どうせここに待ち構えているのは隠密が得意なクモちゃんですよね? 真っ暗闇、とまではいきませんが、かなり日光もなくかなり光量が限られるこの森の中は、木々によって物理的にも視界が遮られますいかからね、いくらでも暗殺し放題なんでしょうね」


 うむ、まさしくその通り、と言えるだろう。だが、もう一つ、彼女が忘れていることがある。


「それだけじゃな


「それだけじゃなくて、クモちゃんの配下もそこら中に蔓延ってる、ってことですよね? それくらい考えればわかりますよー。普通に配下もそこそこ強いでしょうから、それらに手間取っている間に背後からサクッとやる。ひゃーえげつないですよ全く」


 はて、いつもの彼女よりも元気がないように感じられるのは気のせいだろうか。まあ、確かに彼の容赦のない城の構造を見続けていれば萎えてしまうのも仕方のないことだな。


「ですけどまあ、他の生物がいないだけマシなんじゃないでしょうか。蜘蛛は炎に弱いですし、森ごと焼き払っちゃえばなんとかなるんじゃないですか? ここに来て一番攻略しやすそうなエリアですね」


 ふむ、確かにそうかもしれない。森も蜘蛛も火に弱いからそこを突けば確かに大ダメージを与えられるかもしれない。だが、そこまで分かりやすい弱点を彼は野ざらしにしているだろうか。


 私はどうしてもそうは思えないのだ。この層が火に弱いことは誰の目からしても明らかなことである。であるならばそれに対する対策を何か講じているはずだ。もしかしたら、その弱点が見せかけで挑戦者たちに火を使うよう、誘導しているのかもしれない。


 ここに来て、今までと明らかに違う毛色だ。確実に何かあると思った方がいいな。


 まあ、普通の人間ならば全十層ある中でここが六層目でただ単に中弛みで頭が働いていないだけ、という可能性も考慮できる。


 しかし相手はあの彼なのだ。しかも全十層というのは彼が決めたことだ。普通の人であるならばその時点でそんな多くの層を作ろうと思わないのだ。だからこそ、全層になんらかの仕掛けがあるとみてまず間違いないだろう。


「でも、彼ならそのわかりやすい弱点を利用している、という可能性は考えられないだろうか」


「……え!? そ、そんなことありますっ?」


 お、ようやく彼女にもいつものエネルギーが戻ってきたようだ。あまりに予想外すぎて体にショックが発生し、それでエネルギーが生み出されたのだろう。


「彼のことだ。何も知らないプレイヤーならまだしも、いつも彼を見ている私たちなら、絶対に何かあると考える方が自然じゃないか?」


「た、確かにそうですね……で、でも何を用意できるというんです? 火をつけたら瞬時に消化されるようなシステムが搭載されてるとでもいうんですか?」


 うん、それもそれで面白そうではあるのだが。私はもっと別の可能性を考えている。それは、


「それは、もしかしたら次の層を見ることでわかるかもしれない」


 そう、火を付ける、というだけでは見えてこない、もっと大局的な彼の戦略が。


「次の層、ですか? わかりました……って、え? これは、闘技場、ですか?」


「そうだ、そしてそこに鎮座しているのは六本腕のモンスターだ」


「な、なるほど!! つまり、彼は前の層で火が必要と思わせることで魔法使いを大量に用意させ、そこに集まったメイジ達をフィジカルでぶっ飛ばす、そういう作戦を立ててるってことですね!」


「あ、ああ。言葉はあれだがつまりはそういうことなんじゃないかと思っている」






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ちなみに、タイトルの彼は先輩のことです()


コメ返しできてなくて申し訳ないです!

帰ってきたら絶対にするので、コメしてくださいお願いします、お願います!!!!

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