第260話 諦めた観察者


 四十八時間が経過した。成果はまだない。


「あー! 先輩何諦めてるんですかー? ここからが勝負ですよ? 彼は何度かログアウトしてますからまだ、合計四十八時間には達していませんよ? つまり、まだ猶予はあるんです!」


「もう、もういいんだ。放っておいてくれ」


 私は疲れた。いや、心が折れてしまったのだ。なぜなら、山を探す、というのが案外途方もないことだったのだ。彼が難しいと思う基準も曖昧だし、さまざまな特徴がある山々から彼が行く先を当てろ、というのは困難な話だ。


 それに、気づいてしまったのだ。当てたところで私たちに残るものは何もないと。


「だが、キノコについては目星をつけてあるぞ。恐らくマンドラゴラを彼は狙っているのだと思う」


 エリクサーなどに使用される、そこそこレアリティが高いアイテムだ。それを素材のままで、なおかつキノコの効能をあげた状態で食べたら、どえらい事になるのは火を見るよりも明らかだろう。


「ん、でも彼は自動回復を持っていますよね? わざわざ回復手段を必要としますかね? それよりかはもっとなんでしょう、微量な効果を増大させる為に称号を強化させたと考える方が自然ではないでしょうか?」


「ふむ、確かにそれ一理あるな。……もしかして、彼の耐性、無効スキルを補うためにキノコを活用しようとしているんじゃないか?」


「なるほど! って、いやそれもなくないですか? だって、もしカバーできてないのがあれば、彼は迷わず自ら死にまくってスキルを獲得する道を選ぶでしょう。だから、その線も薄いのではないでしょうか?」


「ふむ、」


 なんだよ私の意見を否定ばっかりしやがって、と思わなくもないが、彼女の言っていることは正論かつ私の意見よりも整合性が取れているので何も言い返せないし、それが悪意を持って発せられていないこともわかるので責める気も、傷つく気も起きない。


「ですが、こうしているうちに彼は山での時間を稼いでいますね。どうしましょうか……」


 どうするべきか。その答えは最初から決まっている。それは、観察すること、だ。


 我々はただの観察者で手出しすることはできない、してはならない。だから、たとえその者の行動が読めたところで何も未来は変わらぬのだ。


 ただただ観察をすることによってのみ、そして全体を改善することによってのみ我々の存在意義を発揮できる。


「あ、先輩、どうやら四十八時間経っちゃったみたいですよ?」


 え?


「彼が一直線にマシンへと向かっています。さて、登山者はどんな称号に変わるんでしょうね?」


 もう、そんなに時間が経ってしまっていたのか。


「お! どうやら登山者が強化された称号は……やまじゅうにん? 山住人って言うみたいです! 効果は山での行動全般に大補正、みたいですよ!? 結構強くないですか!? 字面は弱そうなのに!」


 た、確かにそうだな。この称号からは覇気みたいなものが感じられず、決して強そうな字面ではない。だが、山では最強になれるってことなのだろう。


 さて、これで彼は一体どこに向かうのだろうか?


「あえ!? 先輩、彼、また称号を強化しようとしていますよ!? そして、山で一日以上経っているのですぐに称号を選択しました!」


「なにっ!?」


 ま、まさか、まだこれを続けると言うのか? なんという精神力……この条件をクリアするのは生半可なことではないと思うのだが?


 そしてあろうことか、その彼の称号強化は一週間に渡って行われ、図らずとも称号強化ウィークとなってしまった。







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今日は無事午前中に執筆できました!

昨日はギリギリだったので……


そ、それと寝起きに頑張ったのでどうか♡をいただけませんか?

せっかく最新話まで読んでいただいたのです、どうか一押しお願いします!


目標♡数:40

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