第251話 カメちゃん


「あれ、彼が戦うんじゃないんですかね? 従魔のカメちゃんが出てきましたよ? これは……新人いびりですかね?」


 新人いびりでは——ないだろうな。うん、わざわざ彼がそんなことをするとは思えないし、自分で従魔に引き入れたんだぞ? 流石にそんなことをしては世間が許してはくれないだろう。


「あ、でも結構いい感じに戦えてますね! カメちゃんは蠱毒の時もそうだったように、耐えて潜んでじっとして最後の最後に仕留めるっていう戦法が得意なようですから、今回もじわりじわりと毒を浴びせていくんでしょうか?」


 確かにその戦法は強いが、ただ、相手もかなり強いと思うぞ? 亀は最近引き入れられたからあまり戦闘経験がない。それを考慮すると少し不安な戦いにはなってくると思うぞ。


「うぉ! ここで遂に出ました、敵さんの手足展開! こうやってみると設定からは考えられない夥しい量ですね。これだけあれば防御にも攻撃にも使えそうです。さぁ、カメちゃんはどうする?」


 ん、だが敵の手足が攻撃や防御に使えたとしても、相手の防御は毒で、相手の攻撃は甲羅で対処することができるのではないだろうか? これって、もしかしなくても相性抜群なのか……?


「あ、え? このカメちゃん何してるんですか!?」


 ん、彼女の様子がおかしい。相手の敵さんにキレるのならまだわかるが、彼女は亀に対して結構好印象だと思っていたから、まさか怒ることはないと思っていたのだが。まさかソレを裏返そうような出来事が起きたというのか?


「このカメちゃん、毒の攻撃スキルの中でもかなり高ランクの広範囲殲滅型のスキル、ヴェノメストを使用しましたよ!? 亀ってほら、もっとこうじっくりじんわりをモットーに生活しているんじゃなかったんですか!?」


 ヴェノメスト……恐らくヴェノムを英語の比較級のように最上級の形にしたのだろう。しかも、ヴェノムは毒を意味するだけでなく、悪意や恨み、激しい憎しみという意味も持ち合わせている。それの最上級を名前に冠するスキルだ。強くないわけがない。


 今思ったのだが、今は完全に廃止された名前ではあるものの、世界一高い山のエベレストも何かの最上級表現として名付けられたのだろうか? 確かに世界一にふさわしい名前だが、元の単語がエヴェルになってしまうな。流石にイヴィルではないよな?


 おっと、話が大分と逸れてしまったな。今は亀とボスとの戦いの最中であったな。


「先輩、カメちゃんが竜になっちゃいましたよ? これってもうヒドラじゃないんですか? あっ! その姿のまま敵に突撃しました! その運動エネルギーもさることながら、竜を形作ってるのは全て毒! つまり、それに触れるだけでも大ダメージです!」


 なるほど、毒を使って竜の形を再現しているのか。そして、その体で攻撃することで、相手は防御不能の攻撃になる、と言うわけだな。毒に物理的攻撃力を持たせると言う、なんとも頭悪いが強い素晴らしいスキルだな。


 そして、これを使える亀もやはり凄いのかもしれない。最初は新人いびりだのなんだの言っていたが、彼はこうなることをわかっていたのだろう。そして、その実力を確かめるために亀を単騎で向かわせたと言うことだろう。


 そしてそれにしっかりと応えるカメちゃん。流石だ、とても美しい主従関係だな。


「た、倒してしまいましたよ!? か、カメちゃんってこんなに強かったんですか? てっきりマスコットキャラかなんかと思ってましたよ!」


 いや、一応蠱毒も勝ち抜いているしな? ちゃんと強いんだからな?


 それはそうと、私も今回の戦いで感銘を受けたからただ亀と呼ぶのではなく、カメちゃんと呼ぶことにしようかな?


 流石に呼び捨ては可哀想だからな、うん。別に、愛着が湧いたとかでは決してないから勘違いだけしないように。






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因みにエベレストは先輩の考察とは全く別の手法で名付けられていたようです笑

気になる人は調べてみてはいかがでしょうか?

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