第247話 ……


 おいおい、彼が初心者研修なんて一体何の冗談だ? 彼なんて一番初心者から遠い位置にいると言ってもおかしくないだろう?


 ……いや、別に彼が玄人という意味ではないんだが、それでも初心者では絶対に到達できない遊び方をしているだろう。


 ……いや、うん、彼はこのゲームを始めた時からすでに今とそんなに変わらない遊び方をしていたのだが、それとこれとはまた別の話だ。


「あー、これあれですね。彼自身も暗殺ギルドには入っているけど冒険者ギルドには入っていないから、っていう理由で受けているみたいですね。暗殺ギルドって冒険者ギルドの完全上位互換なのに……」


 な、なるほど。そう言うことだったのか。確かに彼は暗殺ギルドに一番初めに入っているからな。そこらへんの仕組みが分からなくても仕方があるまい。


 だって、冒険者ギルドで色んなことを教わっていくもんな。注いてそこからある程度経験を積んで派生ギルドに行ったり行かなかったりするもんな。


「ぷぷっ、彼が藁人形を切ろうとしてますよ? そんなことさせたら地球ごと切っちゃうんじゃないですかね?」


 彼が藁人形を切るのか。面白そうだな、折角だから私も見てみるとするか。私もしっかりとモニターに向き直り、彼の研修の行く末を見守った。そして、、、


 スン


 その一太刀は藁人形ではなく、その空間ごと切っているかのように見えた。それこそ、後輩の言っていた地球ごと切ってしまう、と言うのもあながち冗談には聞こえない程の威力だった。


 あまりの速さに音すら置き去りにされ、藁人形の切断面はもはや時空が歪んでいる様にすら見えてしまう。


「ちょ、この人研修で不動之刀を使っちゃってますよ!? 普通に切れば良いだけなのになんでこんなことするかなー。初心者の研修に悪魔を倒せるような力は求められないでしょう! この人は研修をおちょくりにきたんですかね?」


 彼の場合は、本気で使っている可能性もあるんだよな。それに今の時代、別ゲーのトレーニングモードなどの影響で藁人形というのはいくら切っても切れない、みたいに思っている人も一定数いることだろう。


 だから、逆に自分のできる限りをぶつけてみようと、そう思ったのかもしれない。


「あっ、次は魔法のテストの様です。よくある遠く離れた的に向かって撃つ奴ですね。あー、もう嫌な予感しかしないんですが?」


 ッダンッ!!


 私も見守る中、彼は魔法を放ち的を粉々にした。


 こういうやつこそいくら撃っても壊れないやつなんじゃないのか?


「あ、彼、爆虐魔法を使ってますよ! これはもう確信犯ですね。だって絶対にわざわざそんな威力の強い技を使う必要ってないじゃないですか。だから自分の力を見せつけるためにそうしたんですよ。だからさっきの剣も、ってかそもそもここに来た目的だって彼の自尊心を満たしたいが故に違いありません!」


「ん、彼ってもっと威力の低い魔法なんか持っていたか?」


「あっ……ば、爆虐魔法しか持ってません、ね。……なんで火炎魔法の一つくらい持ってくれても良いじゃないですか! しかも、爆虐魔法の中ではちゃんと一番効果の弱いボムを使っているみたいですし、もう、いったい何なんですか……」


 それはそうだ。私も全く同感だ。彼は一体何なんだ? 何の為に研修を受けているんだ?






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今回のタイトルは「……」をいつもより多用しているなーって思ったのでつけました。皆さんも多いなって思いましたか??

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