第243話 結構


「あ? この人また悪魔討伐に向かうつもりですよ? しかも、次はさらに階級を一つあげて子爵級に挑もうとしていますよ!? もう、どれだけ欲深いんでしょうか? そんなに強くなりたいんですか?」


 久しぶりに荒ぶった彼女が出てきたな。確かに、今さっき強いスキルを手に入れたというのにも関わらず更に力を求めて行動しているのだからな。もう、もはやなんの為に強くなろうとしているのかすらよく分からない。


 ただ、彼の場合まだ気づいていない、という可能性も残されている。


「なあ、もしかして彼はまだ「ぼったくり」の強さに気づいていないんじゃないか? せっかく悪魔を倒したのに良いスキルが出なかったらそりゃもう一回行ってやる、っていうのは人間の心理として当然のことのように思えるぞ?」


「た、確かに……その可能性はありますね。それに、彼にとって失敗した、と思っているならば更に強い敵に挑んでリベンジしたい、っていうのはあるかもしれないですね」


 そう、そして、いずれぼったくりの強さにも気づくだろうから、得するのは結局彼なんだよな。彼はどうしてこうもう強くなり続けてしまうのだろうか?


「あ、なんか迷ってたみたいですけど、悪魔に出逢っちゃいましたね。しかも、珍しくこの悪魔は女性です! 女性の悪魔ってあんまりイメージがないんですけど、ちゃんと悪魔してますねー」


 悪魔してるってなんだ? まあ、意味は分かるが、この場面以外に使い道あるのだろうか?


「お、この悪魔、さすが子爵級というだけはあって結構強めですね。触手を使いこなして、彼を攻め立ててますよ? これってもしかしたらもしかしますかね!?」


 うん、それをフラグ建設というのだ、後輩よ。いい加減学んだらどうだ? ほら、そんなことをいうから彼が一撃で倒してしまうのだろう?


「おー、それでもまだまだ悪魔のターンですね? 彼に一度も攻撃は当たっていないですが、悪魔の攻撃速度、回数、威力、どれをとってもかなりハイレベルです! ってことは一回くらい死んでくれるんじゃないですかね?」


 お、珍しいなまだ決着が着いていないとは。だが、もう、今の彼女の発言で彼が一度も死なずに悪魔を倒すっていう未来が確定してしまったぞ? 全く、どうしてくれるんだ、そうするくらいなら、彼が勝って当たり前の雰囲気を作った方が負けてくれそうだと思うが?


「あ! ここに来て悪魔が人間に近い姿から怪物へと変化しましたよ! うわーこれは結構醜いですねー。まるで女性の本心を表しているようですね!」


 ……いやそれを女性の君がいうかね、普通。ま、まああくまでこの女性の腹黒さを表している、ってことだよな? そうだよな!?


「お!? 彼が足元を物理的に掬われましたよ! なんと、彼女が全身から触手を生み出し、それを地面に潜らせていたようです! 彼の意識の外から攻撃するとは……この女、やりますね」


 え、もしかして対抗心抱いている? ゲームの中の悪魔の女に、いや、まさか、まさかねぇ?


「あ、彼が叡智啓蒙を使いました! これであらゆる情報を感知することで、まるで攻撃が当たらなくなりました! そして、龍宿を使って半龍人くらいになって、更に明鏡止水まで使ってますよ!? これは結構ガチガチですね! もう、お相手さんの命は残りわずかでしょう」


 はあ、遂に終わったのか。意外と楽しませてくれたが子爵級でも所詮それまでだったな。


「はい!? 彼が、彼がぼったくりを使いましたよ!?」


 ……んん!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る