第241話 残酷な無邪気


「あ、彼、また研究室に来てますよ」


 研究所? あぁ、悪魔を研究している爺さんがいる所か。って、研究所?


「何しにきたんだ?」


「さあ、何ででしょうね? 最近悪魔倒してましたっけ? 多分倒してないと思うんですけど……」


 ふむ、悪魔を倒していないのにここにきたということは、つまり、


「これから倒すってことじゃ無いのか?」


「あ、そうみたいですね。爺さんから悪魔の情報をたくさん入手しようとしてますよ! これって不味いんじゃ無いですか? きっと悪魔は経験値的にも美味しいでしょうし、心臓を手に入れれば強力なスキルも入手できますからね。いよいよ本腰入れて自分の強化に臨もうとしてますねこれは」


 本腰を入れて望む、か。確かに彼は今まで圧倒的なスピードで強くなってきたのにも関わらず、さして本気でやっているようには見えなかった。


 いや、本気じゃないというのは語弊があるかもしれないが、ただただ強くなろうとしているって感じではなかった。強くなる為の最短ルートを通ってはいるものの、全力疾走はしてない、そんな印象だ。


 もし、彼がひたむきに強さだけを追い求めていたのならば、蠱毒を開催することも無いだろうし、もっと死亡数を稼いでいただろう。


 でも確かに彼が本腰を入れるとなると少し不味いかもしれないな。彼の強化が加速するとなると……他のプレイヤーとの差の開き方が指数関数的に広がってしまう。


「あ、早速悪魔退治に向かうようですね。相手は……どうやら男爵級の悪魔のようです」


 男爵級か……男爵というと爵位の中では低い方ではあるのだが、平民からすれば貴族であることには変わりがないように、悪魔の男爵級でも普通に強い。普通のプレイヤーであれば敵う道理はないだろう。


 しかし、彼ならば最も容易く攻略してしまうのだろうな。それこそ赤子の手を捻るように……


「あ、彼が悪魔に遭遇しました! この悪魔は近接系でさらに本来の姿が獣のようで醜い悪魔ですね。まさに男爵級、と言った所でしょうか? あ、別に獣が醜いってわけじゃないですよ? 獣のようでさらに醜いってことです」


 あぁ、もちろん分かっている。彼女は思ったことをそのまま言うから誤解されやすいのだが、別に根は一切悪いことは考えていないのだ。


 ただただ純粋、って感じだな。だからこそ凶悪でもあるのだが。


「あ、彼が猫騙しを使いましたよ! それで相手を怯ませた隙に彼は魔闘支配を発動し、断面に向かって……はい、悪魔退治終了です。お疲れ様でした」


 あ、あれこんなに簡単に終わって良いものなのか? いや、確かに戦う前は赤子の手を捻るだのなんだの言ったが、それはあえて最悪な結末を予想することで、現状に対して折り合いをつけるっていう大人なりの手法だったんだが……


 彼はより無邪気に、残酷に悪魔を倒してしまったようだ。おそらく猫騙しもせっかく作ったのだから使ってみたいという、それくらいの感情でしかないのだろうな。


 無邪気って怖い。





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