第235話 麺の行き先


「ふぅー」


 いやー、非常に大きな確かな満足を得ることができたな。まさか近場にこれほどまでに美味しいラーメン屋さんがあるとは思っていないかった。それも、豚骨ラーメンの。


 これからは週三、いや、週二……いや週一で通うかもしれないな。もうおじさんは若い頃のように何も気にせず食べられる年じゃないからな。食べた分だけ結果として現れてくる。


 何事も結果が出るまでは継続せよというが、これに関してはすぐに結果が出てしまうんだよなー。ずっと出なくていいのに。


 さて、切り替えて業務の方に戻るか。


「あれ? 彼が変な所に来てますよ? 辺境の地ともいうべきでしょうか。山の麓の小さな小屋の前に立っています」


 ふむ、辺境の地で更に小屋の前、か。ふあー、不味い。豚骨ラーメンなんていう糖質と脂質の塊を食べたせいで血糖値が爆上がりしてしまって、ものすごい眠気に襲われている。


 こんな状態ではまともな思考回路なんてできないぞ?


 やはり、野菜中心の生活をするべきだよな。食べているときはあれほど幸せだったというのに……もう、無茶できない体になってきたのだとつくづく痛感させられる。


「あれ? 中から人が出て来ましたよ。あ、この人彼のお師匠さんじゃないですか? って、さっき作った猛毒豚骨ラーメンを渡していますよ!?」


「はっ!?」


 一気に眠気が吹っ飛んだ。彼のその行為は師匠に手料理を渡す、という意味だけではない。丹精と一緒に毒も込められているのだ。いや、むしろ毒しか込められていないレベルだった。


 それを師匠に渡すということは、


「師匠を殺そうとしてるのか……?」


 今まで彼はずっと自分だけが死んできた。勿論、モンスターを倒すこともしばしばあっただろう。しかし、こうも大々的に人を殺そうとするのは初めて見るかもしれない。


 彼の強さが、他人に向けられるとなればかなり恐ろしいことになるだろうな。そして、その第一歩目となるのが自分の師匠という……まさか、彼もその道を歩み始めるとはな。


「あれ? なんかお師匠さん美味しそうに食べてますよ?」


「まあ、流石に口を含んだ瞬間に死ぬような毒の成分ではないのではないのか? 美味しそうな顔をして、食べ終わった後に毒が回って死ぬ、彼はそんな図を思い浮かべているのだろう」


「あれ、この人替え玉してますけど?」


「えっ?」


 ど、どういうことだ? もしかしてかなり遅効性の毒だったりするのか? でも、流石にあれだけの量を入れられてるのに、何も感じずに美味しそうに食べている師匠って……


「あ、そういえばNPCの仙人はデフォルトで状態異常無効がついているんでした! すっかり忘れてましたね。ラーメンを食べたせいで頭の回転が鈍くなってるのかもしれません」


 え、あ、そうだったのか?


 ……私も頭の回転が鈍くなってたってことにしてもらおう。どれもこれも全部ラーメンが悪いんだ。






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前話で飯テロされた皆様、ここに深くお詫び申し上げます。

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