第234話 ハモリ
「んー? 彼が突然料理を作り始めましたよ? 一体何をなんの為に作るつもりなんでしょうか?」
料理か。現実世界で作るとなればそれは単に栄養補給の為だとわかるのだが、このゲームの世界だと料理を作る意味は全く別の方向になってしまう。
それは、回復アイテムやバフアイテムとしての価値だ。料理は普通のポーションやその他のアイテムと違って、素材が多く、手間隙が掛かる。だからこそ、それらとは一線を画した効果が得られるのだ。
回復量においても、効果の度合いにしても素材の価値に比べると物凄いパフォーマンスを発揮する。
しかし、そもそも料理を極めるくらいなら力をつけて金を稼ぎ、高価な回復薬等を買えばいいだけなのだ。わざわざ料理をする必要はない。確かに料理の効果は高いと言ったが、金を出せば同じ性能のポーションはあるのだから。
だからこそ、彼の今行っている料理の意図が分からないのだ。回復薬を節約することで出費を抑えようとしているようには見えないし、というか出費を抑えたいなら死ぬのをやめろっていう話だ。
自分にバフをかけるにしてもわざわざそこまでして彼が倒したい相手というのがいるのか? 大抵の敵であれば彼は造作もなく倒せそうなんだがな。
「彼が素材を取り出しましたね、あれは確かドッグピッグと呼ばれる魔物だったはずです。毒性のある汗をかくことが大きな特徴なんですが、何故この魔物を?」
毒性の汗をかく? それはなかなかに特殊体質だな。毒素を汗として排出するということは、その魔物が相当毒の強い植物か何かを主食にしているということなのだろう。え、トリカブトでも食べているのか?
「ん、この豚ちゃんを解体して骨はスープに、身の方は紐で縛ってますね。何を作っているのでしょうか? さらに小麦粉のようなスモールバクフンを用意して、カメちゃんの毒を練り込んでますよ!? え、これってもしかして……」
これは、もうもしかしなくてもアレしかないだろうな。
「自分で死ぬ為に作ってる!?」
「豚骨ラーメンだな」
「「え?」」
私たちは綺麗に被った。発した言葉の内容が、ではなくただ単にタイミングが、だが。
なるほど、確かに自分で自害するために美味しい食べ物を作って死のうという、いわば婆さんのコンセプトを自分で再現しようということか。確かにそれはあり得るかもしれない。
「あー確かに言われてみればお豚に麺ってきたら豚骨ラーメンですね。逆になんで思いつかなかったんだろう?」
二人とも全く違う視点で考えていたようだな。それで二人とも間違ったみたいになって妙な雰囲気が生まれてしまったのだが、それは置いておこう。
それよりもいよいよラーメンが完成しそうだ。さすがは上級料理人といったところだろうか、手際が物凄く良い。それに、修行時とは違ってステータスの補正もちゃんと乗っているからなおのことだ。
瞬く間に作業を終え、器にスープ、オイル、麺を加えその上からチャーシュー、ネギ、メンマ、ノリ、煮卵をトッピングして、完成のようだ。
「うわ、美味しそう……」
うん、普通に料理として非常に美味しそうだ。豚が毒性の汗をかくとか、麺に強力な毒が入っていることを頭の中から排除できたら、の話だが。
「あのー」
「なあ」
「「あ、」」
また被ってしまった。何を言うつもりなのだろうか。
「先輩、ちょっと昼休憩がてらラーメンを食べにいきませんか?」
おっと、今回は言いたいことまで被っていたようだ。正に私もその提案をしようとしていたところなのだから。
「私もちょうどその提案をしようと思っていたところだよ」
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