第228話 自供実況
ワニとムカデ、現実では決して交わることのない両者が今、ゲームを通して睨み合っている。互いの尊厳を賭けて。
戦の前特有の、沈黙が場を支配する。そして先に動き出したのはワニであった。
この戦いではより機動力のあるものから動き、そして死んでいく。ということはつまりはそういうことなのだろうか。
それは残ったのもの強さを表すのか、それとも戦術の強さを表すのか……
ワニがちょこまかちょこまかとムカデを撹乱するかのように、周りを走りまたっている。まあ、そんなにスピードは出てないから撹乱にすらなっていないだろうが。
そして、遂にワニが攻撃を仕掛けた。ムカデの胴体に噛み付いたのだ。ワニの気持ちとしてはどういう気持ちで噛んでいるのだろうか? 正直相手は虫だから噛みたくないという気持ちがあるのだろうか?
でもムカデは昆虫には分類されないからセーフ判定なのかもしれない。
ワニが噛み付いた場所がまた絶妙で、尻尾でも攻撃しづらく、かといって口での攻撃はさらに難しい、真ん中よりも尻尾寄りの場所に噛み付いていた。
ムカデは苦悶の表情を浮かべており、かなりキツそうだ。だが、それで終わるムカデではなかった。
「え、なんですかこれは!」
お、どうやら彼女がお手洗いから帰ってきたようだ。彼女がいない間、脳内で実況まがいのことをしてみたのだが、彼女のように上手くはいかないものだな。
「これは、噛みつかれたムカデが振り解くために自分の体を丸めている所だな。現実のムカデもこのようなことをするのか?」
「いやいやいや、そんなわけないでしょ! もし、現実でそんなことしてるムカデがいたらびっくりしますよ!?」
ふむ、確かにそうだな。
「「あ、」」
ムカデは自身が丸まることによってワニを吹き飛ばし噛みつきから逃れた。そして、その次に取った行動が、吹き飛ばされたワニに向かって一つの大きなタイヤのようになった状態で衝突しようとしているのだ。
自分でも何を言っているのか分からなくなってしまうが、嘘偽りはない。今まさに起きようとしていることだ。
ッダン
衝突した後はそのまま通常状態に戻ることでワニに覆い被さり、完全にワニを捉えてしまった。もうこうなって仕舞えばワニに勝ち目はないだろう。その時であった、
完全にマウントを取られているワニが突然、ものすごい勢いで暴れ始めたのだ。
覆い被さっているムカデの体に所構わずに噛み付いたり引っ掻いたりしまくっているのだ。ムカデ自身も完全に勝ったと思っていた状態からの猛反撃でとても苦しそうだ。
このままでは自分の受けるダメージも大きくなると分かったのかムカデは一旦、距離を取ろうとした。
しかし、ワニの猛追は続いた。だが、距離をとったのは逃げるためではなく、なんと尻尾で攻撃する為であった。
ワニとムカデの一進一退の攻防が続く。これは一体どちらに勝利の女神が微笑むのだろうか?
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