第226話 地に足つけた実況


「おぉー! 凄いじゃないですか、先輩!」


「うん、確かにこれは凄い」


 私たちは今、圧巻の光景を見せられていた。彼が導火線に火を付けると、それが瞬く間に燃え広がり、六体のモンスターを仕切っていた壁が崩れ落ちたのだ。


 まるでモンスターたちが突如現れたようで凄くカッコ良い。そのモンスターたちも戦士のような顔つきをしていて臨場感もバッチリだ。


 彼は一体何をしているのだろうと思っていたが、どうやらこれは全て従魔に行わせたようだ。これだけの完成度のものを、壊れるとわかっておきながら作るとは、従魔のレベルも相当高いみたいだな。


「おーっと、先手を取ったのはずんぐりむっくりヘビだ! 驚異的なジャンプ力でゴキブリバッタの元へ向かう! しかし、ゴキブリバッタもAGI型で軽々とヘビの攻撃を避けました!」


「「あっ」」


 そこで悲劇が起きた。バッタがヘビの攻撃を避ける為に飛んだ先にはなんとワニの口元が待っていた。


 ワニは大きく口を開け餌が入ってくるのを待つ。バッタは全力で方向転換をしようとするが間に合わず、自身の羽に噛みつかれてしまった。


 だが、これでバッタの不運は終わらない。羽を噛みちぎられたバッタ空中で体勢を崩し地に落ちてしまうのだが、なんと、その地面はムカデの尻尾の領域だった。そして、その尻尾に容赦無く命を絶たれた。


「おーっと! ここで早々にもゴキブリバッタが脱落ー! 人間の怨念がバッタを殺したのでしょうか!? しかし、それでも試合会場は何事もなかったかのように牽制が今もなお繰り広げられております!」


 あまりにも呆気ない最後だったな。ムカデの尻尾がバッタに突き刺さり毒でも注入されたのだろうか。彼女も言っていたがやはり人間の敵のような姿をしているため、早々に退場させられたのだろうか。


 だがいくら大かろうと所詮はバッタだ。大きさも結局はワニやムカデには全然敵わなかったし、機動力に関しては蛇と同程度であってしまった。一番最初に脱落するのは必然だったのかもしれないな。


 下馬評も悪かったし。


「あ、おーっとここでまたもやヘビが空中に躍り出ました! 今度はウシに向かって攻撃するようだ! あ、あー。その攻撃はなんなくウシにヘディングの要領で返され、その先にはムカデの強靭な顎が待ち構えており、まるでスナック菓子でも食べるかのように一刀両断されてしまいました!」


 バッタに続いてヘビまでもが立て続けにやられてしまったな。やはり自然界では大きさこそ強さの基準になるのだろうな。


 しかも、どちらも空中にいる状態でやられてしまった。地に足付けて戦わねばならぬと言ったところだろうか。


 ……彼女の実況については何も言うまい。そのおかげで分かりやすくもなっているのだし、本人も気分が良くなっているだろうからな。


 それにしても自ら率先して実況を行う後輩ってそれはそれでどうなんだろうか?

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