第215話 汁を知る
「お、今日からまた彼の料理修行は再開するようですよ! 今回は……どうやらスープのようです!」
ほう、スープか。スープはもっとも基本的は工程であると同時に料理の味全体を決める最も重要な部分と言っても良いほど大事なものだ。
それを切り方の次に教えるというのは、さすが婆さんといったところだろうか?
「先輩、食材入れて煮込むだけなのに、スープを作るのってそんなに難しいんですか?」
うん、彼女の意見も最もだろう。スープの作り方は一見シンプルで簡単そうに見えるからな。だが、
「スープというのは食材一つ一つの最適な煮込み時間を見つけ、それらがうまくかけ合わさらないといけないから難しいんじゃないか?」
私が偉そうに言ったら、どこのポジションで言ってるんだ、って言われそうだから控えめに言った。
それにしても料理は奥深いものだよな。私も一時期、食だけが唯一の楽しみである時があって、その時は自分でもよく料理をしていたものだ。
もちろんプロと呼ばれる人には遠く及ばないが、それでも料理の楽しさや難しさは多少なりとも知っているつもりだ。
「え、彼全然合格できませんよ? もう途中から味見する前にダメって言われてますよ!? そんなに難しいんですか?」
やはり、これに関しては一朝一夕にできるものではないのだろうな。現実でこれを完璧にマスターしようと思ったらそれこそとてつもない時間と労力をかねばならぬのだろう。
「お! やっと合格しましたよ! って、どれだけ時間かかってるんですか! もう今日、終わって明日になってるじゃないですか!」
いや、これでも早い方じゃないのか? ゲームだからある程度は簡単にできるようになっていると思うが、あの婆さんが基準となるとほとんど現実に近いレベルで審査されているだろうから、これでも上出来な方だろう。
「それにしても、彼は修行にどれだけの時間を注ぎ込むつもりなんでしょうね? だってこの間はレベルも上がらないし、スキルも称号も獲得できないわけですよね? これは周りとの差が縮まっちゃうんじゃないですか?」
いや、周りとの差が小さくなることは我々からしたら良いことではないのか? もう、いつの間にか彼女は彼の視点に立ってしまっているな。
「とは言っても、先ほどの斬法十四手ように修行を進めて行く中で身につけるもの、得るものも多くあるんじゃないか? それを彼は見据えて、この時間を注いでいるのだと思うぞ」
「でも、これで先に進めますね! って、え? またスープ作り?」
「今までは野菜メインのスープだったからな。今度は肉とかを使うのだろう? だって、ベジタリアンでもなければ食材は野菜だけじゃないからな。その分身につけないといけないスキルは増えていく」
先ほど彼女は彼はスキルは獲得できないといっていたが、考え方を変えてみると、かれは今までにないスピードで多くのスキルを獲得しているのかもしれない。
短期間でこんなに料理に触れることなんてないからな。
もしかしたら、彼の狙いもそんなところにあるのかもしれない。例えば、料理を作ってあげたい人ができた、とか。
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あれ、主人公が料理を作ってあげたかった人って……
気になる人は、340話あたりを読むと良いかもしれません!笑
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