第214話 ニュービー


「あれ? 今日は修行はしないんですかね? まあ、確かに切る修行だけで一週間くらい使いましたからね、休みでもおかしくはないですね。ん? 彼、一体何してるんですかね?」


 ん、何やら不穏な空気だな。彼女が彼に対して何か疑問を持つときはたいてい碌なことは起きていない。彼が大幅に強化されているか、彼が大幅に強化された力を使って何かをするかの二択だ。


「彼に何があったんだい?」


「ん? いえ珍しく彼がゲームにログインしていませんでしたので、なにかあったのかなと。今まで彼は基本的に毎日ログインしてましたよね? 何かあったんでしょうか?」


 ん、確かに珍しいな。しかし私の予想は外れてしまったようだ。


「いかに彼がゲーム内で強いと言っても我々と同じ人間であることに変わりはない。しかも、昨日までは結構ハードな修行を行っていたのだから、たまには家でゴロゴロしてるんじゃないか?」


 とは言ってみたものの、彼がそんなことをしている姿なんて全く想像できない。彼はリアルでも充実した生活を送っているのだろうな。羨ましい限りだ。


「まあ、それもそうですね。でもとなると今日は何をしましょう。彼の観察が一番面白いのにそれがなくなったとなると変な感じですね」


 確かに言われてみれば、彼がこのゲームに降り立ってからというもの、ずっと彼のことを観察し続けてきたように思う。


 今日は久しぶりに他のプレイヤーも観察してみることにしよう。


「あ、先輩先輩。新しいプレイヤーですよ! 新たな人生の始まりというのは見ている私たちも胸躍るものですよね!」


「うん、そうだな」


 これに関しては私も大きく賛同するな。希望に満ち溢れ、目に輝きを灯しているプレイヤーを見ると、心が浄化されていくようだ。


「お、早速スライム狩りを始めてますね! これはセンスありかもしれませんよ? バッタバッタなぎ倒していきます!」


 いや、スライムくらいみんな薙ぎ倒せるだろう。むしろそうじゃなきゃスライムの価値が大暴落するぞ?


 だが、センスがある、というのも変な話だよな。いくら戦闘が上手にできてもそれは既にあるレールの上をいかに速く走るか、というものでしかないのだからな。


 こういったゲーム、いや人生においても自らレールを開拓できる人達が最終的には評価され、強くなっていくのだろうな。


「先輩、なに考えてるんですか? どうせ彼と比べてるんでしょ。あれは比較対象にならないというか、例外中の例外だから考えるだけ無駄ですよ? それよりほら、さっきのニュービーがもうホーンラビットを倒しましたよ!」


 まあ、確かにそうだな。彼女のいうことも最もだ。


 だが、どうしても比べてしまうものだよな。彼は最初、ホーンラビットを倒すのではなく、自ら倒されにいったのだから。


 そう考えると、彼の特殊性はあまりにも異常だったのだな。そりゃ、当時の私たちの手に負える代物ではなかったのだろう。


 いや、別に今も手に負えているわけではないが。


 とかく、彼に見習って私たちも新たなレールを引いていけるよう精進しなければならないのだな。


 これを教えてくれた彼には感謝だな。


「先輩、なんでそんな満足そうな顔してるんですか?」

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