第209話 スキルの重要性


「ちょっと待て、死神のペンダントってどういう効果があるんだ? 確認したい」


「はい、死神のペンダントは冥府に向かうことができますね。冥府とは死後の世界で、天界や獄界、霊界などですかね?」


「な、なるほど。ん、ちょっと待てよ、死神のペンダントの効果説明にはなんて書いてあるんだ? そんなに丁寧に説明されていたか?」


「いえ、ただ死への親和性が高まる、とのみ表記されております」


「なるほど、ならば彼は冥府に行けることが分かった上でそれを選択したというわけではないんだな?」


「おそらく、そうだと思われます」


「では一体なぜ、それを選んだんだ? 普通に考えてというかどう考えても即戦力になる武器や防具、スキルを選びたくなるのではないか?」


「確かにそうですね。でも、逆にこう考えたのではないですか? スキルも武器も防具も彼にとってはそれほど重要では無かった、と」


「彼にとって必要ない、だと?」


「はい。彼はスキルに関しては今まで欲しいと思うよりも先に多くのものを手に入れてきました。武器や防具も金さえ払えば必要なものは手に入ると知っています。そこで、普通にプレイしているだけでは手に入らない、少なくとも今までは目にしてこなかったものを手に入れよう、そう考えたのではないですか?」


「なるほど、確かにそう考えれば辻褄は合う、かもしれない。彼にとってのスキルの立ち位置が低いのか、お金持ちはそこまでお金に執着しないように、彼もスキルをたくさん持っているからこそ、スキルには目がいかなかったのか……」


「はい、ですがこれは彼がスキル等を選ばなかった理由にはなりますが、死神のペンダントを選んだ理由にはなりません。なぜ、それ以外にも無数の選択肢があったのにも関わらず一番効果が謎めいているこれにしたのでしょうか?」


「ん、そういえば他にも彼は報酬を手にしているのではないか? ペンダントだけではポイントが余るだろう」


「はい、残りはアバターを一つと、お金ですね。お金に関しては彼はよく死ぬのでいつも金欠ですから納得はいきますし、アバターに関しても今回多くの人に見られたからそれに対する対抗策なのではないでしょうか?」


「ふむー、ペンダント以外はわかりやすいのだな。そうなってくるといよいよ気になってしまうな。今現在、冥府に向かおうとする動きも確認されないのだろう?」


「はい、今は……水を飲んでますね」


「水?」


「は、はい。これは私の推測でしかないのですが、彼は恐らく水中毒による死を狙っているのではないでしょうか?」


「水中毒!?」


「はい、人間は水を飲みすぎると死に至ります。原因は水の飲み過ぎることで、血液中の塩分濃度が低下し、電解質のバランスが崩壊することによって引き起こされるらしいです。詳しいことは分かりませんが、彼も水を飲み過ぎれば死ぬことを知っていたのではないでしょうか?」


 そ、そんな死に方があったのか……なんて恐ろしい。しかもそれを平然とやってのけるなんて、どういう気持ちなのだろうか?


「あっ、どうやらもう終わったみたいですよ。獲得したスキルは嘔吐無効と塩分不要、そして水操作ですね」


 そりゃコレだけすぐに獲得できればスキルを欲しいなんて気が失せて当然か。

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