第208話 彼と彼女


「え、相手も獲得しているのか?」


「はい、どうやら、二人で協力してあの莫大なエネルギーを生み出した、という判定になっているらしくて、はい、つまりはそういうことです」


「そ、そうか……彼女は確か修羅の道も歩んでいるんだったよな? これは少しまずい展開になっているかもしれないな」


 元々、彼女は修羅の道を歩んでおり、正当に自分を強化している。別に彼が不当と言っているわけではないが、彼女の強さも侮れないくなる。という話だ。


 彼の場合は死亡数に応じて強くなり、また死ねば死ぬほど死ににくくなるという体質だ。それに、死ぬっていうのは一見お手軽そうに見えて、単純作業であるし、精神的にも辛いところはあるだろう。


 つまり何が言いたいかというと、彼は時間と共に強くなりづらくなる、ということだ。


 ソレに対してザクロ選手の場合は至極普通だ。相手を倒せば倒すほど強くなれるのだから、ゲームに沿ってクリアしていくだけで修羅の道の恩恵も相まって、どんどん強さが加速していくと思われる。


 そうなった時に、理論上の話ではあるが、いずれ彼に追いつきうる存在になるのかもしれない。


 ただ、それはあくまで机上の空論で、彼がいつも通り思いも寄らない方法で強くなっていくかもしれないし、はたまた、彼女もしくは彼が途中でゲームから離れてしまうかもしれない。


 ただ、可能性があるだけでも十分に脅威なのだ。現にイベントでは誰よりも善戦しているからな。


 この可能性は、その彼女始動の元、彼女が強くなることができたメソッドを他のプレイヤーに応用することで、化ける。


 そう、彼と彼女で一番の相違点は、再現性の差だ。彼の明らかな唯一無二性ーー頑張れば再現できるかもだがーーに比べ、彼女の方はちゃんと順序さえ守れば、再現は可能である。


 まあ、彼女の場合も唯一性がないとは言わないが、彼よりかは幾分とましだろう。


 そして、言動からして彼女にはカリスマ性も兼ね備えていると見受けられる。仮にだが、彼女を中心とした大規模組織、大規模クランが誕生した暁には、このゲームに大きな影響を及ぼすだろう。


 彼に比べれば小さな火種かもしれないが、確実に大きくなる炎。願わくば良い方向に進んで欲しいところではあるのだが……


「不味い展開ですか? それって彼に対抗しうるかもしれないってことですかね? でも、流石に彼が負けることはないと思いますよ? だって、彼女が強くなっている間も彼は強くなり続けると思いますし、彼はまた、必ずとんでもないことをしでかしますよ。コレは断言できます。だから、今の状態を不味いと捉えてないなら、別にコレからも不味くはならないと思いますよ?」


 彼女が私の頭を見透かしたようにそう言ってきた。


「ふふっ、確かにそうかもしれないな。どうせ彼は何かするだろうな。これに関しては心配するだけ、あれこれ思案するだけ無駄ってことだな。まさに塞翁が馬ってことだな」


「いや、逆に彼の場合はもうやらかす前提ですから、塞翁が馬ではないのでは? あ、それより見てくださいよほら、早速彼やっちゃってますよ?」


 彼女はいつもあることのように、なんでもない風に私にそう言った。しかし、ソレは思ったよりも重大なことであった。


「な、死神のペンダント!?」


「どうやらイベントの報酬をこれにしたようですよ。ほとんど効果が分からないようなものなのに、スキルとか装備じゃなくてコレを選ぶとは流石、としか言いようがありませんね」


 おいおいおい、私の最初の心配は本当になんだったんだよ。

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