第207話 させられた
二つの爆炎が激突した後、文字通り世界が無に帰した。
圧倒的高密度エネルギーの塊同士がぶつかることによって、生み出されるエネルギーはとんでもないことになっていたのだろう。
イベント会場は荒野へと姿を変え、そこには一人の男しか残っていなかった。相手のプレイヤーはもちろん、観衆すらも余さず飲み込んでいるようだ。
私が考えうる限り、最悪の展開が今なお進行しているにも関わらず、頭はやけに冷静だ。今更どうこうしたって無駄だと体が、脳が認識しているからだろうか。いや、認識させられたのだろうか。
目の前にいる男は今、何を考えているのだろうか。圧倒的力で対戦相手を、観衆を捻り潰すように呑み込んだ彼が思う先はなんなのだろう。
もしかすると、彼は激しく虚無感に襲われているのかもしれない。自分が一番であると認めるしかない結果に終わってしまったからな。これ以上、このゲームに彼は何を求めるのだろう。
彼を運営に引き込むとかどうとか以前に、彼がこのゲームから離れる可能性すら出てきたのだ。この圧倒的すぎる勝利を手にしたことによって。ならば、運営としてやるべきことはただ一つ、こんなにも素晴らしいプレイヤー、お客さん、そして観察対象を絶対に逃さないということだ。
そして、我々なら、いや私なら彼を引き止められる可能性はある。プレイヤーとはまた違う可能性を提示することによって、だ。
なぜそこまで彼に肩入れするのか。そう疑問が出てもおかしくないだろう。だが、素直に考えてみて欲しい。これほどまでの力を何の手助けもなく自力で取得した彼に、何もないわけがないと思わないか? 必ず彼には何かある。
それを私は見つけたいのだ、知りたいのだ。
そしてその権利を誰にも渡したくない、というのが正直な気持ちだ。棚から牡丹餅で得たチャンスであることは間違い無いのだが、どうしても失いたくないという感情が芽生えてしまった。
これはいよいよ本格的にシナリオを考える時が来たようだ。彼が彼自身の気持ちに気づく前に、気づいてしまう前に、必ず彼に役目を、使命を、このゲームで遊ぶ意味を提示すること、それが今私にできる最大限のことだ。
「結局彼が優勝しちゃいましたねー」
「あぁ、そうだな。まあ、分かっていたことでもあるだろう。だが、言わんとすることもわかる」
「ん、今日はヤケに素直ですね? 何かありましたか?」
「いや特にいつもと変わらないぞ?」
「うっそ絶対にそんなことないですよ! まあ、先輩がそう言うならもう何も聞きませんが、私も言いたいことは残ってますよ?」
「言いたいこと?」
「はい、彼が優勝した時に得たものです。先ずは称号から行きますか。爆炎の使徒と頂点に立つ者、の二つを獲得しました。爆炎の使徒は莫大なエネルギーを生み出すことで獲得できるスキルで、マテリアルボムというスキルを獲得できます。そして、頂点に立つ者はNPCからの好感度が上昇するだけですね」
言いたいことっていうのは、スキルのことであったか。まあ、薄々感づいてはいたのだが。
「ん、莫大なエネルギーを生み出したのは彼、という判定になっているのか?」
「お、流石は先輩、良いところに気がつきますね! そう、流石の彼も彼一人であの規模のエネルギーを生み出したわけではありませんし、一人で生み出せるものに限定すれば恐らくこの称号を獲得するに至らなかったでしょう。つまり、」
「つまり?」
「この爆炎の使徒、という称号はなんと対戦相手のザクロ選手も獲得しているのです!!」
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