第206話 ヒートアップ


「あ、訂正が入りました。どうやら彼が生き残っているのは即死無効による効果ではなくて、別の称号の食いしばり効果によるものらしいです! うん、どちらにせよチートには変わりありませんね!

 あーっとここでHPが少ないのがわかっているかのように、ザクロ選手が圧倒的スピード重視の雷魔法、サンダーボルテクスを放った! これは流石の彼も万事休すかーー!!」


「「「あ、」」」


 この場にいる何人の人があ、と口に出してしまっただろうか。おそらく全員だろう。


 皆、彼女の実況通り彼が負けたと一瞬思ってしまった。しかし、そんなに呆気なく負けてしまってはそれはもう彼ではないのだ。もちろん、こんなところで負けるはずがなかった。


「か、彼は、はい、電撃無効も持ち合わせていましたね。はい、ただのチートでございます。だがこれで九死に一生を得た彼だが、依然としてペースはザクロ選手だ。このまま押し切ってしまうのか!?」


 これは、本当に相手プレイヤーが凄いようだ。彼の不注意とはいえ一気にここまで追い詰めているのだからな。


「おっと、ここでさらにザクロ選手の追撃! 賢者魔法というなかなか珍しい魔法を使用してきましたね! これは、かなり特殊な魔法で色々種類があるのですが、今回ザクロ選手が使用しているのは、不可視の斬撃を飛ばすというもの! 綺麗な顔をして置いて、繰り出す技はどれも悍ましい!! これは彼女の内面を表しているのかー!?」


 いや、別にそんなことはないだろう。彼女のザクロ選手に対する嫉妬もまだまだ残っているようだ。早めに彼に倒してもらわないと困るんだが。大丈夫だろうか?


「おー! これは不可視の斬撃も彼はのらりくらりと交わしております! これは最近手に入れた察知系スキルのおかげでしょうか? っと、ここで彼が距離を取った! 反撃の構えか? おぉっ、これは、従魔武装! 彼の従魔と一心同体になって身体機能を大幅に上昇させるものです!」


 従魔武装か……って、いつの間にそんなスキルを獲得していたんだ? 私の知らないところでゲットしたのか、それともそれを見ていて見過ごしているのか……


 兎にも角にも、超強力な彼と強力な従魔が一つになって強くないわけがない。これは勝負あったか?


「お、これは彼の一番初めの従魔と合体しましたね。今はキメラとなっておりますが、元々はスワンプコンドルで、ハゲワシでした。長い年月を経て今こうして強敵の前に一つとなる、胸熱展開です! 

 彼は背中から生えた翼を上手く操り、相手に急接近、そして肉弾戦に持ち込みますが、相手もただではやられません。彼から蹴りをもらった後、その勢いに身を任せて距離を取りました。これにてまた仕切り直しですっ!」


 彼女は大丈夫なのだろうか? 実況解説もかなりヒートアップしてきて心配になるレベルなんだが……


 にしても、相手もタダではやられないところを見るとさすが、初代優勝者と言ったところだろうか。


「おぉーーーーっと、ここで彼が力を解放し始めたぁーー!! ここで決着を決めるつもりなのでしょうか!?

 そして、ザクロ選手もそれに呼応するかのように、黒炎魔術を展開! 最大火力の黒炎爆趨で一気にケリをつけるつもりだ!

 それに対する彼は……え、な、なんて言ってるのでしょうか。全く聞き取れませんね、従魔武装の影響でしっかり発音できていないのでしょうか?」


 その時の私は確かに発音は聞き取れなかった。ただ、全身を駆け巡る悪寒に震えが止まらなかった。


「ま、まさか」


 そして、二つの爆炎が激突した。

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