第204話 回復と萎縮
彼の初戦が終わった後、私たちは異様な雰囲気に包まれた。
しかし、その後の試合をみるにつれて徐々に徐々に活気が戻っていった。だが、それはもちろん、彼の試合が再び来る前の、静けさに過ぎなかった。
❇︎
「お、次は……彼、ですね。ですが、相手も結構強そうですよ! 第一回イベントで二位を取り、そのまま第二回のイベントで優勝したという、名実共にナンバーツーと囁かれているプレイヤーですね!」
始まりはいつも通り行われる彼女の説明だった。
まず、お相手さんのことを名実共にナンバーツーと評するのはどうかと思うぞ? 本人はナンバーワンを目指して頑張っているだろうに、運営公式のナンバーツーって可哀想にもほどがある。
そして更に、その可哀想という事実に輪をかけて、彼の存在でナンバーツーという立ち位置さえキープできなくなってしまうのだ。だからこそ彼のお相手さんには頑張って欲しいものだ。うん。
だが、彼の対戦相手として不足がないのは間違いない。先程はあんな結果になってしまったが、今回は、この場の雰囲気が壊れないくらいには、奮闘できるのかもしれない。
「お、始まりました! おっと、まさかの拳対決ですね! ですが、まずは敵選手の猛攻が彼を襲います!」
いつからか始まった、この後輩の実況スタイル。しかも、これが意外と悪くないっていうのが、憎めない所なのだ。
「敵の拳による連続攻撃が絶え間なく繰り出されていますが、おっと、これはどういうことでしょう!? 敵の攻撃が一切当たっていないようだ! まるで敵の攻撃がどこに来るのか、全て見えているようだー!」
彼女は答えが分かっているくせに、この場を盛り上げる為に煽るような実況をしている。そして、これが幾分かは効果が出るくらいには、今の雰囲気はよろしくない。
彼が、敵の攻撃を避けているのは恐らく、先日、選定によって獲得した、叡智啓蒙による効果だろう。彼は体感時間は引き伸ばされ、敵の予備動作の一つ一つからその攻撃を予測し、最小限の動きで避けることができる。
その状態で敵の攻撃に当たれ、と言われる方が難しいだろう。
「あ、先輩が全部説明しちゃいましたね! そう、これは彼のスキル、叡智啓蒙によるものですね! 効果は先程先輩がいった通りで、とにかく情報収集、処理性能が抜群に上がっちゃうんです! これには流石の敵プレイヤーもお手上げか?」
え、私、声に出ていたのか? これは恥ずかしい。聞かれてもいないのに意気揚々と説明した痛い野郎になっていなかっただろうか?
……いや、周りの反応をみるにこれはそうなっていたようだな。クスクスと笑われている気がする。
だが、これで少しでも雰囲気が明るくなるのであれば甘んじて受け入れよう。そして、今は私事なんかよりももっと気になることが行われている最中だ。この試合だけは一瞬も見逃せない。
「おっと、ここで彼から反撃ぃ! 彼には一切当たらなかった拳が、相手プレイヤーに吸い込まれるように当ったー! これは、一回戦同様に魔闘支配を使用していますね。確実なダメージが敵プレイヤーを襲っていることでしょう」
彼女はどうやら、実況と解説を一人で行うパターンのようだ。まあ、彼女ならできなくもないし、性格上、なんでも一人でやりたがるのだろうな。だから適任だろうし、あとは放っておこう。
「まさかの反撃に驚いている敵選手、しかし、ここで奥の手を使うようです! でた、体を最高スピードで動かし神速の如く攻撃を決める、スキル電光石火だー!」
それこそ正に目にも止まらぬ速さで彼に肉薄した相手は……
ズダダダダダダダンッ!!
彼に綺麗なカウンターを決められて、撃沈してしまった。
しかし、今、肉薄したお相手が不自然に硬直したような気がするのだが、気のせいだろうか。これは流石に一発は貰うだろう、という速度だったのだが、蓋を開けてみれば結局無傷での勝利。
そして、また戻り始めてきた雰囲気も急速に萎んでいってしまった。
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