第178話 契約についての話


「じゃあ、契約について詳しく説明しますね」


 私が彼女にお寿司を奢ることが決定した後に、ようやく彼女はそうやって言ってくれた。正直、契約というなんとも不穏な響きのある言葉がずっと脳裏にこびりついて離れなかったのだ。


「すまない、よろしくお願いする」


「はい、わかりました。そうですね、まずはお婆さんに出会うところからですね。彼は、情報を収集しようとしたのか、民家を漁り始めました。そこで吸血鬼を一悶着あったりもしたのですが、最終的に一人のお婆さんがいる家に到着するのです」


「ふむ。民家を漁り始めて一悶着があったということは、その吸血鬼はその民家の中にいたのだろう? ってことは、その婆さんはかなり危険である、もしくはその婆さんも……」


「そこまでです! 私が説明しますから、フライングはなしですよ!」


「分かった。続けてくれ」


「はい。彼はお婆さんの家に入れてもらうことに成功しました。そして、まずなぜ自分をすんなり部屋に通したのか、という疑問を投げかけました。この街に吸血鬼が蔓延っていることは周知の事実ですから、自分が吸血鬼である可能性は考慮しなかったのか、と」


「うむ、確かに妥当な疑問ではあるな。しかし、民家で一悶着あった後ならば……」


「先輩! フライングはなしですって! 三度目はないですからね?」


「……すまない、続けてくれ」


 ついつい口に出す癖がよくない方向に働いてしまっているな。口に出さず頭の中で考えていればいいだけなんだ。こっからはさらに気をつけなければ。


「そして、その疑問に対して、お婆さんは自分がまさに吸血鬼であるから、彼が吸血鬼でないことは一目で見抜いた、という衝撃の事実を口にしたのです!!」


「ほぅ」


 まあ、正直な所、内心ではそうじゃないかな、とは思っていた。だけど、彼女はドラマチックに語りたがる節があるから、こういったところでちゃんとリアクションしていかなければいけない。


「これには流石の彼も驚愕の表情を浮かべましたが、お婆さんはすぐに彼に敵対する意思はない、と表明しました。そして、その後も軽く彼が質問をした後に、お婆さんの本題に入ったのです」


 その後の軽い質問が気になるな。彼はお婆さんのお年を聞いたりはしていないだろうな? いや、長寿であろう吸血鬼からすると、歳を聞くのは案外失礼に当たらないのか?


 まあ、何にせよ答えがわからない以上考えても無駄だな。


「そして、その本題が話されます。それは。お婆さんの孫についてでした。吸血鬼内の派閥争いにおいて、ちょっとしたミスをして、立場が危うくなった孫をどうにか助けて欲しい、というものでした。これはおそらく彼がかなりの強者であると、婆さんが見抜いたことによって発生したクエストだと思われます」


 なるほど、彼がクエストを発生させることに関しては今更どうこう思うことはないが、一つ気になることがあるな。


「なあ、その孫が犯したというちょっとしたミスとは一体どういうものなのだ?」


「はい、それはですね同族に手を出しちゃったことです」


「え?」


 同族殺しってことか? それがちょっとしたミス? ん、それはどういう世界線なんだ?

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