第176話 面倒臭いこと


「彼は今、一体全部でどれくらいのスキルを、死ぬことによって獲得しているんだい?」


「はぁ、彼が死んだことによって手に入れたスキルの全て、ですか……最初は刺突無効とかからでしたよね? そこから毒無効、潜水とかゲットしていたような気がしますね。でも流石に全部を把握するとなると少し面倒くさいですね」


 いや、面倒臭いとか言っちゃダメだろう。まあ、研究者気質の自分が面倒臭いという感情に鈍いということはよくわかっているから、強くは言わないが、私は一応上司だぞ?


 おぉ、最初から飛ばしまくりだなー。でも、これはあくまで序章に過ぎないんだよな。これからまだまだ獲得しまくって、血液不要にまで至るということか。


 もう、ほぼ全ての死因を網羅しているような気もするんだが、まだまだこれから獲得していくのだろうか?


 こうなっている以上、パワーバランスとか、面倒臭いことは置いといて、行けるとこまでとことん突き進んで欲しいな。


「あ、そろそろ時間だな。ちょっと用事があるから出かけてくる」


「あら、もうそうんな時間なんですね。いってらっしゃいです。ですが、先輩がいない間に彼がどうなっているかは知りませんけどね」


 おいおい、不吉なことをいうのはやめてくれ。それは自分が一番よくわかっていることだし、不安に思っていることなんだから、わざわざ言葉にして再確認しなくてもいいだろう?


「では、言ってくるぞ。あとは任せた」


 私がこれから向かう先とは、上司として、社長としての責務を全うする場所だ。


 そう、株主総会だ。


 ❇︎


「ふぅ」


 やっと終わった。株主総会では、経営のことだけでなく、配当のことやその他事務的なことも結構行われるから、面倒くさいんだよな。


 特に、形式的なことばかり行われているイメージで、必要なことだけを行ったら、今の三分の一くらいの時間くらいには短縮できるのではなかろうか?


 よし、でもこれにて自分の中での厄介ごとランキング上位の株主総会が終わったのは大きいな。そして、この後は必ず一人で蕎麦に行くって決めているのだ。天ぷらと蕎麦を食べながら一人でこれからのことを考える、あのしっぽりとした時間がたまらなく好きなんだ。


「いただきます」


 このお店はもう何年来のお付き合いだろうか、いつも安定した美味しさを私の口に届けてくれる。私はここに死ぬまで通うのだろうな、と毎回ここに来る度に考えている。


 いざ、実食。早速蕎麦をすすろうとしたその矢先、


 ピコン


 通知がきた。基本私は通知を切っているので、通知がなるってことは緊急事態の時しかない。そして、その相手も物凄く限られてくる。


 相手を確認する。……後輩だ。


『彼が契約しちゃいました』


 私はソッと電源を切って、蕎麦の香りを鼻いっぱいに潜らせながら、衣を纏った美しき天麩羅を頂いた。

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