第175話 細胞レベル
お、どうやら彼が盗賊団のアジトを抜けたようだ。と言ってもほとんどこの階層で味方になったワンこに攻略させていたんだがな。本人は主に穴掘りと救助をメインに行っていたようだ。
それにしても、あの可愛らしいワンちゃんがこれほど強いとはな、予想外にも程がある。制作チームは意外性を持たせたかったのだろうが、それにしてもやりすぎではなかろうか?
説明を聞けば聞くほど現実逃避したくなるって、一体どういうことなんだ、全く。まあ、彼女の説明はわかりやすくて格好良かったからそれはそれで良かったんだけどな。
「あ、今度は……ここってどこですか? 中世のヨーロッパ、いやロンドンみたいな街並みですね。霧に覆われていて薄暗く、空気が悪そうです」
ん、中世の街並みで霧がかって薄暗い……
「もしかしてドラキュラ、じゃないのか?」
「あっ、なるほど、吸血鬼ですか! それなら確かにこの雰囲気、世界観ともマッチしますね! あとこれは余談ですが、ドラキュラというのはあくまで小説に出てくる吸血鬼の名前で、英語で言うならヴァンパイア、になるんですよ?」
「そ、そうか」
くっ、これは一本取られた。正直なところでいうと、今彼女が話した内容については知っていた。知っていたのだが、思いついたままにそのまま口に出してしまったことで間違えたのだ。
だが、「いや知っている」と言っても、指摘されるのが嫌だった人みたいに映ることだろう。それも嫌である。
つまり、私がドラキュラと誤爆した時点で私の負けは確定しており、指摘された以上、素直に認めるしかないのだ。
しかも、これの一番タチの悪いのが、彼女もそれを理解しているであろうということだ。
彼女が私がドラキュラとヴァンパイアの違いについて知っているかどうか、知っていたかは知らない。だが、私が知っているかどうかに関わらず、彼女は指摘をするだけで上に立てるのだ。
それを、その後の彼女の満足気な顔から窺える。おそらく私がこの階層の敵を判別してことに対して、無意識下にクロスカウンターを放ってきたのだろう。
うん、これは負けを認めるしかないだろう。私が悪い。
「あ、先輩。彼、普通に死にましたよ? どr、吸血鬼に噛まれて。そしてその後も何度も何度も死んで、最終的に血液不要というスキルを獲得してしまいました」
「は?」
ちょっと待て、相変わらず情報量が多すぎる。まず、言い間違いだ。今、絶対にドラキュラって言いそうになってただろ? ここで急にドラムロールとかいうような流れでもないしな。
そして、え、なんだって? 彼が死んで、死にまくって、血液不要を手に入れただって?
つまり、吸血鬼から血液を吸われることによって、貧血を起こし死に至ったというわけか……
いよいよ、細胞レベルで人間を辞めてきているじゃないか、もはや、人間よりもドラk、吸血鬼の方が近いんじゃないか?
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